(1から続く)
次に、本題であるビジネス面において、自社のVR/AR/MRデバイスは現在どのような動きをしているかについて語った。
「HoloLensとWindows MRとでは、完全に戦略を分けています。HoloLensはエンタープライズ向け、Windows MRはコンシューマー向けとなっています。HoloLensにもエンターテイメント系のアプリも多数ありますが、それは開発者が勝手に開発して勝手にリリースしているだけですので、基本は完全エンタープライズ向けです。戦略的にエンタープライズ向けですので、建築、製造、医療、教育といった分野に向けてワールドワイドの各企業と組んでプロトタイプを開発してデモとしてリリースしています。
そういった現状を見て、日本で発売してからは国内の同業他社がウチでもやりたいと続々と声がかかっています。まだ表に出ているものはそれほどありませんが、皆さんが知っている有名企業もかなり導入し始めています。もっとも需要があるのは建築分野、その次が製造分野です。建築分野に関しては、設計の段階までは3D CADなどデジタル化が進んでいるのですが、最後の現場はデジタル化が遅れています。その現場での検証や作業支援などで、HoloLensが導入され始めているというわけです」(高橋氏)
「『2017年はエンタープライズが来るだろう』と思っていたので予想通りになったなというのが実感です。1年程前までは、どの企業がHTC Viveを使おうとしているのかを把握していたのですが、今はもうまったく把握できない程になりました。トヨタ自動車がヒューマノイドロボットのマスター操縦システム側でHTC Viveを使ったのですが、それもプレスリリースが発表されてから初めて知ったくらいで、もう自分たちの知らないところで数多く使われているようになっています。
売上比率的にもビジネスエディションが上がってきており、問い合わせの受注見積り額も以前より一桁上がっていますので、エンタープライズ向けの盛り上がりは数字としても実感があります。やはりHTC Viveもエンタープライズで強いのは、製造分野。あとはHoloLensと同じように、建築、医療、教育の分野が強いですね」(西川氏)
VR/AR/MRにおけるビジネス分野で2017年に印象的だったことについて、高橋氏は「Unityの凄さ」だと話す。
「HoloLensアプリの9割はUnityで開発されています。しかもHoloLensとWindows MRのアプリというものは、プロジェクトからなにから一緒。要は空間を描くか描かないかの違い、入力はモーションコントローラーでやるかジェスチャーでやるかぐらいの違いなのでプロジェクトは一緒なのです。UnityでのMR開発はVR開発とほとんど変わらないということです。
そして、開発者が持っているVRアプリのノウハウやスキルが蓄積されてきています。そこで、MRなどの新しいプラットフォームやデバイスにもそのノウハウやスキルを流用できるところは相当すごいなと感じています」
西川氏は新しいVRデバイスが発売されても、HTC Viveの売り上げが落ちるどころか逆に伸びるところにVRの成長性を感じている。
「VR/AR/MR市場というのはまだまだ成長していますので、新しいプレーヤーが参入してきてもカニバライゼーションしないですよね。たとえば、2016年秋にPlayStation VRが発売されましたが、HTC Vive側ではとくになにもしていないのに、相乗効果で売り上げが伸びたのです。2017年にWindows MRが発売されたとき、同じように売り上げが伸びる現象がありました。VR/AR/MR市場は、まだまだ伸び代があると感じた出来事でしたね」
最後に、2018年におけるVR/AR/MR市場の展望を両名が語った。
「2018年はビジネス領域がさらに広がると考えています。そこで日本に足りないところは、VRにおけるITコンサルティングやSIerの層です。大企業に対してソリューションを提供するSIerがいると思いますが、そこのVR導入率がまだ低い。実際に自身で手を動かしてプログラミングをして大企業向けにVRソリューションをパッケージとして提供できるSIerがまだほとんどいません。しかし2018年には、その層が広がっていくと思っていますし、これまでOracleやSAPを手がけていたSIerが『当社ならVRソリューションも提供できますよ、UnityやUnreal Engineのエンジニアも在籍していますよ』と変化していくと思います。このようなSIerが立ち上がれば大企業向けのVRソリューションも広がってくると思いますし、2018年半ば~後半は実際にそうなるだろうと見ています」(西川氏)
「マイクロソフトの場合、もともとWindowsでパートナーとのビジネスを展開しているので、2016年からようやく日本でも認定パートナーを5社展開するようになりました。とくに日本のエンタープライズはそういったパートナー企業がいないとなかなか浸透していかないといったところがありますので、エンタープライズ向けのVR/AR/MRの取り組みができるエコシステム、つまり『SIerがいて、エンタープライズのエンドユーザーがいて、それを開発するISV企業がいて』という流れを厚くしていく動きに力を入れていく予定です」(高橋氏)
これまでコンシューマー向けがクローズアップされるばかりだったVR/AR/MR。2018年は、エンタープライズ向けVR/AR/MRの元年となることが予想される。
(3へと続く)