(前編から続く)
しばらくの間、アプリ開発に携わっていた深澤氏であるが、VR/AR/MRの技術が台頭してきたことで、「それらの技術を活用して新たなホーンテッドマンションの世界観をつくってみたらどういうものになるか?」という発想から、「マジックリアリティ:コリドール」の開発がスタートした。
「『ホーンテッドマンション』がライドアトラクションのため、企画当初は『電動車椅子のようなものに乗り、VRゴーグルを被ってアトラクション内を進んでいくのも面白いのではないか』と考えていた時期もありました。また、しばらくはストーリーが決まらずに、『どういう体験だったら怖いのか、面白いのか』と考えながらたくさんのシーンやクリーチャーのスケッチを描きました。また、社内にクロマキー合成ができる4×8メートル程度のスペースを確保して試行錯誤しました。たとえば、CGと現実をミックスさせるために現実部分はカメラで映すのですが、自身と同伴者の姿だけをCGの世界の中に合成したいという条件がありました。そのためには、リアルタイムにクロマキーでカメラ映像を切り取り、CGの世界に合成する必要があります。それらを自分たちでポールを立てたり布を買ってきたりしてクロマキースタジオのようなスペースを社内に作るなど、すべて手作りでおこなっていったのです」
「マジックリアリティ:コリドール」でもっとも気をつけたのは安全面だ。ゲームや映像だけのVRコンテンツとは異なり自身の足で歩いて行くため、壁にぶつからないようにしなければならない。壁にぶつかってしまうと、安全面の問題だけでなく空間の狭さを感じるようになり、同じ空間内をグルグルと歩き回っているようにしか感じられなくなってしまう。
「4×8ートルの現実空間を感じさせず、もっと広い場所を歩きながら様々な異なる展開が現れて、本当に廃墟になった洋館を進んでいる。このように感じられるためにはどうしたらいいかと考え、床に魔法陣で示されたルートが表示され、その指示に沿って歩いていくという形に落ち着きました。最初は自由に歩けるようにしたのですが、そうするとどうしてもプレーヤーがルートを外れてしまうのです。体が壁にぶつからないまでも、プレーヤーが持つランタンが壁にぶつかるといった危険もありましたので、“魔法陣の光る道”という形にしました。また、最初は一人で歩いて進んでいくタイプにしようかと考えていたのですが、『お化け屋敷というものは誰かを誘って二人で入るということが多いのでは?』という意見が出たため、試してみたところ、二人だと一人とは異なった体験になることもわかりました。たとえば、一人が気付かないところをもう一人に指摘されたり、解釈をお互い話し合うなど、さまざまな気付きがあったのです」
「マジックリアリティ:コリドール」がホラーアトラクションとして初めて公開されたのは、2017年夏に東京・赤坂サカスで開催された「デリシャカス2017 GOURMET&FUTURE TV」でのこと。5分間程度のショートバージョンではあるが、開催期間(2ヶ月間)中は毎日100人程度が体験をし、ほぼ100%の稼働となった。
「その後は、『マジックリアリティ:コリドール』以外の作品も公開できる施設を検討。2017年10月28日に、東京・お台場のダイバーシティ東京プラザ内にMRシアター『ティフォニウム』を開設しました。ここでは約15分間のフルバージョンの『マジックリアリティ:コリドール』を体験することができます。体験ブースのクロマキー合成はそれまで緑色でしたが、それでは完全に合成用という感じですので、『ティフォニウム』ではコーポレートカラーである紫色に変えて不思議な空間にしています。なお『ティフォニウム』では今後、ホラーアトラクションに限らず、ファンタジー寄りのMRコンテンツなど、ジャンルを広げていこうと考えています。さらに将来的には、『ティフォニウム』を日本だけでなく世界へと広げていきたいですね。今後、技術が進むことで、各施設を遠隔でつないでいくことで、さまざま国の人々が同時に一つのストーリーやイベントを体験できるようになるかもしれません。そういった未来を現実のものにするために、今はさまざまな企画を検討している段階です。私たちの目標は、私にとっての『ホーンテッドマンション』のように、体験した人にとって一生の思い出に残るような作品をつくっていきたい、ということです」