2017年11月5日、「文京学院大学本郷キャンパス」において開催された「CGWORLD 2017 クリエイティブ カンファレンス」。本稿では、(1)で紹介したセッションに続いて開催されたセッション『VRのその先へ – MRによる次世代没入体験の創造【Tyffon】』の内容を紹介したい。
VR/AR/MRといった技術の登場により、これからの時代ではスクリーンをベースとしたコンテンツではない、空間をベースとしたまったく新しいコンテンツ制作への流れが強くなっていく。映像から没入体験へという転換点である現在、コンテンツ制作の方法論の転換も必要となる。そこで本セッションでは、MR(Mixed Reality : 複合現実)を用いた次世代ホラーアトラクション「マジックリアリティ:コリドール」の企画・制作の流れをティフォン株式会社のCEO「深澤 研」氏が紹介。今までにない体験を創造するための新たな文法の一端が示された。
「最初に断っておきたいのは、ティフォンでもVRの技術を使用するのが初めての試みだったということです。かつ、一桁という少人数でMRコンテンツをつくりました。そのため、VR/MRについて非常に経験の多い会社の知見をお披露目するというよりは、まったく新しいコンテンツを少人数でどのように作り出していったか、そのときになにが大切になるか、というところを含めて語っていきたいと思います」(深澤氏)。
美しくも恐ろしい、廃墟になった洋館コリドールを歩いて巡るアトラクション「マジックリアリティ:コリドール」は、VRゴーグル「HTC VIVE」を被って自由に動き回れるルームスケールコンテンツとして制作されている。それもただ周囲を見回せるだけでなく、自身の足で歩いて動き回れるという特徴を持っている。そして、それに加えて、同行している体験者の姿も見えるという特徴を持つ。
「VRコンテンツだとCGでつくった空間へ完全に没入していきますが、『マジックリアリティ:コリドール』はMRの要素を加えています。そのため、自身の姿だけでなく、一緒に体験している同伴者の姿も見えるという特徴を持っています」
続いて、深澤氏が「マジックリアリティ:コリドール」のようなホラーアトラクションをつくるに至った自身の背景について語った。
「遡って考えると、4歳の頃に体験した東京ディズニーランドのホラーアトラクション『ホーンテッドマンション』が原点でした。この体験に強い衝撃を受け、『自分もいつか、こんなアトラクションやテーマパークをつくってみたい』と考えるようになりました。そうした影響もあり、小中学生の頃からゾンビやゴーストなど、ホラーの要素を持つ絵を描くようになったのです。なかでも頭蓋骨に興味があって、大学では解剖学モデルをCGでシミュレーションして顔の表情をアニメーションさせるという研究をしていました。その流れで、大学卒業後は外資系メーカーでエンジニアとして働くようになりました。その後はフリーランスとなり絵画や映像制作などアート寄りの活動をしていましたが、テクノロジーを使った作品もつくりたいと考え、ソニー系のベンチャー企業にジョインしてアプリ開発も手がけるようになりました。そこのメンバーと一緒に独立して立ち上げたのがティフォンという会社です。会社立ち上げ当初に開発したのが、スマートフォンで撮影した顔写真を自動的にゾンビに変身させるアプリ『ゾンビブース 2』です。このアプリは広義のARと言えるもので、写真一枚の静止画が自動的にコンピューターグラフィックスとなり、インタラクティブにアニメーションさせることができます。シリーズ累計で4000万ダウンロードされるほどの人気アプリになりました。
iPhone/Android向けアプリ「ゾンビブース 2」
さらに2014年には、ディズニー社がスタートアップ企業を対象におこなっているプログラム『ディズニーアクセラレータ』の1社にティフォンが選ばれ、『Show Your Disney Side』というアプリをリリースしました。自分を撮影すると、その顔写真がディズニーランドのキャラクターに変身できるというアプリで、アメリカではかなりの話題となったアプリです。ただ、日本ではダウンロードできないため、国内ではあまり知られていませんが…」
(後編に続く)