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パース製作現場におけるCGとVRの活用の仕方 ~スペースラボ株式会社に聞く~(後編)

 

中編から続く)

 

VRのインパクトがプレゼンテーションにも強みを与える

――VRに取り組みはじめたきっかけはなんでしょうか?

金澤氏:弊社のCGパースはプレゼンテーションで使われるものです。プレゼンテーションは通常コンペ形式で行われますから、他社のCGパースと比較して、驚きやインパクトを与えるような作品だと他社を出し抜いて勝てるようになります。その驚きやインパクトを得るために、VRは最適だと考えたわけです。ただ、VRでプレゼンテーションを行っても、制作期間やコストは変わりません。そのため、プレゼンテーションにVRを導入するにはまだまだ難しい面があります。そこで現状ではプレゼンテーションというよりも、商業施設が完成する前に「完成後の姿をヴァーチャル体験してもらう」といったような検証用途として使われることが多くなっています。

柴原氏:VRは結局、コストがネックとなってきます。パソコンにヘッドマウントディスプレイなどといったハードウェアの他、オペレーターなどの運用コストがかかってきます。ただ弊社では「パソコン修理工場」があるため、システムとVRコンテンツ一式で納品できるのは強みです。

 

――VRコンテンツの制作環境は?

工藤氏:Unreal Engineを使って制作しています。UnityとUnreal Engineを比較検討しましたが、システム的なことよりもクオリティを重視したことからUnreal Engineを選びました。その次に、「Unreal Engineに導入するモデラーをどうするか?」となったときに、3ds Maxに戻ってきたというわけです。

 

VRコンテンツの作品例

 

――VRを取り入れたことでメリットはありますか?

金澤氏:まだVRの事例が多いわけではありませんが、プレゼンテーションで勝てることが増えたというメリットはありますね。やはり、VRはまだまだ多くのユーザーが触れているわけではありません。そこでプレゼンテーションにVRを使うことで、インパクトを与えることはできているのではないでしょうか。

 

――VRコンテンツの制作体制を教えてください。

金澤氏:とにかくCGパースを描く人手が足りなくて、VR制作に人手を回すことがなかなかできていません。そこで、ここ2年ぐらいはCGパースと同時並行して、クリエーターがそれぞれ個人で勉強するようなかたちでVRに取り組んでもらっていました。ただようやく、工藤と小笠原の2名がVRチームとして動けるようになりました。そこで、VRチームメンバーの増員も予定しつつ、これからは本格的にVRコンテンツへと取り組んでいこうと考えています。

 

――制作期間やコスト面で課題がある中、スペースラボさんではなぜVRコンテンツを制作できるのでしょうか?

工藤氏:CG素材やテクスチャのストックが増えてきたということと、VRの知識があるスタッフが増えてきたのが理由です。それに加えて、パソコンのスペックがどんどん向上し、レンダリングの台となるパソコンが増えていることや、ソフトウェアの進化なども理由に挙げられるかもしれません。そのため、短納期、低コストでもVRコンテンツの制作が可能になったのではないでしょうか。

金澤氏:弊社では小物や植栽までモデリングで表現しています。そのため、CGパースの納品とほぼ同時にVRコンテンツも納品することができます。弊社が制作するVRコンテンツは、「パースVR」(商標出願中)という名称でお客様に認知していただいています。

 

――最後に、スペースラボさんの今後の展望を教えてください。

金澤氏:弊社の当面の目標は「パース業界で一番になりましょう!」ということ。それを命題にしつつ、「どこまで我々ができることがあるのだろう?」「どこまでクライアントのお役に立てることがあるのだろう?」を常に考えながら、時代に柔軟に対応しつつビジネスを展開していきたいと思っています。またVRに関しては、今後必ず、大きな波は来るはずです。そのタイミングを外さないようにすることが大切ですが、弊社ではCG制作のベースが出来上がっているので、いつ大波が来たとしても対応はできると考えています。

柴原氏:現在、弊社では働き方改革として夜遅くまでは働かないような動きをとっています。それだけでなく、夜間にレンダリングのバッチ処理をするようなこともしていません。ということは、夜間~朝にかけて1日の約半分の時間は、ハイスペックなパソコンが稼働していないことになります。それではもったいないと考え、東京・渋谷近辺の映像プロダクションなどに「夜間にパソコンのリソースを貸し出してレンダリングをしてもらう」といったレンダリング代行サービス「TGV render farm」を事業として行っております。

 

――本日はありがとうござました!