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イベントレポート『Japan VR Summit 3』 「VR/MRの活用による製造業変革~クルマ造りの生産-設計をつなぐVR/MR~」(後編)

 

前編から続く)

続いて登壇したのが、本田技術研究所(以下、ホンダ)の西川氏。同氏が所属するホンダの「4輪R&Dセンター鈴鹿分室」では、生産現場に役立つVRの研究をおこなっている。VRソフトウェアを自動車の見栄えや商品性の検証用に導入しており、そのことでホンダにおける新車の量産準備に向けた車両確認の前倒しが可能になっている。

「車両組立部門と一緒に、3年程前(2014年初頭)からVR活用にトライし始めています。そこでは新車を量産する前にVRによる『実車レス』での組立訓練をおこなうことで、研究用テスト車の削減を実現。従来はテスト車の部品をラインと同じような工程で3週間くらいかけて組み立ての検証・確認作業をおこなっていましたが、それをVRに置き換えたということです」

 

ホンダでは車体の下側ピットからおこなう車両の検査作業の検証もVRでおこなっている。

「VRはアニメーションで動かせることから『それなら、車両をそのまま本当の検査作業のスピードで動かそう』とメンバーからの提案により実現させました。実際のラインでは1台の検証工程が2分程度ですので、VRアニメーションでも2分間で車が動くようにしました」

 

VR化された検査作業はヘッドマウントディスプレイを被っておこなわれている。しかし、3D酔いをしやすい人がいるため、そのような人たちのために同時に2D映像をディスプレイに表示。3D酔いをしやすい人は2D画像で確認してもらう、というようにフレキシブルな対応をしているという。

「VRはまだ完璧ではありませんので、システムありきではなく、検証などに使用される相手に敬意を払いながら共に考え、活用方法の提案・工夫をおこなうことでVR利用に効果を認めることができました。そのため、次の機種以降も継続して利用していくこととなっています」

 

続けて、日経BP社 吉田氏の司会によるクロストークがスタートした。

「VR、MR活用で苦労した点、工夫された点、それから現場の方に受け入れてもらうために、どういったところを工夫されたかについてお話ください」(吉田氏)

「相手の置かれた立場で考えた上でMRの導入を進めないといけない、というところが一番大きいですね。そして、押し売りせず、システムの都合を押し付けず、現場の人たちのペースで進めてもらうことです。現場が本当に理解し腹落ちして使ってもらわなければ定着しませんから」(榊原氏)

「私もそれに尽きると思います。どんな良いものを作っても使う人たちの気持ちが乗らないと使ってもらえません。『こんなに良いVRシステムだから使いなさい』と言ったところで気持ちが乗っていなければ浸透しませんので、相手から意見が出てくるまで丁寧な説明会を三回ほど開き、現場の理解を得ようと務めました」(西川氏)

 

「失敗はありますか?」(吉田氏)

「最初は私自身、MRの嬉しさがわかってない状態で売り込んでいったというところです。当時は私も『立体的に見えることで何が嬉しいのだ』というくらいの気持ちだったのですが、『仮想空間で自分の手が見え、そこで実際の距離や位置が把握できるから現場の人も使える』というところまで持ってくのに2年ぐらいかかりました」(榊原氏)

「よくあるのが、VR体験時にヘッドマウントディスプレイを被っている人の後ろから2D映像のディスプレイで見てVR体験をしたと考える人。その体験だけで腕組んで論評される人もいますので、『とにかくヘッドマウントディスプレイを被って』というところには努力をしました」(西川氏)

 

「VR/MRを利用して、実際に“酔う”という声は多いのでしょうか?」(吉田氏)

「多いですね。ただ、ヘッドマウントディスプレイをかけ40分くらいも検証を続けていてもまったくVR酔いをしないという人もいます。このように個人差が激しいので、現状ではなんとも言えないなっていうところは正直あります」(西川氏)

「MRでもVRほどではないと思いますが、“酔い”は発生します。私の場合、5年くらい前までは1時間くらいヘッドマウントディスプレイをかけて作業をしても平気でしたが、今は30分が限界です。個人差はありますが、若い人は順応性が早いですから酔うことはあまりないようです」(榊原氏)

 

「今後はどのようにVR/MRを展開する予定ですか?」(吉田氏)

「トヨタ自動車では国内に11工場ありますが、現状ではその1工場にようやく手を出せた状態です。そこで当然、今後は他の工場への展開を考えています。MRの活用は、現状では生産の現場が中心になっていますが、デザインや設計の現場でも活用できるのではないかとも思っています」(榊原氏)

「他の部門にVRを展開しても同じような効果が出るかどうか微妙な部分もありますので、できるだけ効果が出そうな部門を狙って展開を広げている最中です。他の工場への展開や海外の展開も検討している段階となっています」(西川氏)

 

「本日は、どうもありがとうございました」(吉田氏)