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イベントレポート『Japan VR Summit 3』 「VR/MRの活用による製造業変革~クルマ造りの生産-設計をつなぐVR/MR~」(前編)

去る2017年10月12日、グリー株式会社と一般社団法人VRコンソーシアムが主催、日経BP社が共催するイベント『Japan VR Summit 3』が東京ビッグサイトにて開催された。このイベントには各会のVR/ARトッププレイヤーがスピーカーに迎えられ、VRをテーマに講演がおこなわれた。

本稿では、同イベントで吉田 勝 氏(日経BP社 日経ものづくり編集 副編集長)を司会に、榊原 恒明 氏(トヨタ自動車株式会社 エンジニアリングIT部 第3エンジニアリングシステム室主幹)と、西川 活 氏(株式会社本田技術研究所 4輪R&Dセンター鈴鹿分室 主任研究員)が登壇した講演「VR/MRの活用による製造業変革~クルマ造りの生産-設計をつなぐVR/MR~」の模様をお送りする。

 

トヨタでは生産現場の作業改善にMRを利用

冒頭に登壇したのは、トヨタ自動車の榊原氏。まずはトヨタ自動車の概要を語った後、生産の現場で3Dデータを活用することが当たり前になってきているが自在に見ることができる人は少ない、と話す。

また、製造の現場では労働安全衛生法とその関連法令に基づき、職場では従業員の安全衛生確保と快適な職場環境の形成を図る必要がある。そのため、トヨタ自動車では「労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)」が定めている。たとえば、一日あたり400回もの繰り返し作業(上向きでのボルト締めや切粉の吹き飛ばし、など)をおこなえば、疲労骨折や手首捻挫などといった症状が発生することがある。そこで作業負荷低減を検討するために、トヨタ自動車ではMRが活用されている。

「そのために、MRを活用した設備レビュー会を開催しています。まずは現場の従業員にヘッドマウントディスプレイを被ってもらい、設備や作業の把握と評価。そして、作業負荷の測定をして、問題点の確認と対策を検討していきます。そこでは、作業箇所や部品の高さや位置、距離を理解するためにリアルな作業環境ではなく、MRにより仮想的に作業を体験。作業自体が無理なくおこなえるかを検証しています」

 

従来、一部の人しか扱えなかった3Dデータ。MRを活用することで教育や訓練をすることなく、実際の現場で作業を検討するのと同等の感覚で作業検討がおこなえるようになり、3Dデータを誰でも扱えるようになる。

「『MRは働き方の改善につながる』という声が聞こえるようになってきました。これまで、デジタルだけで判断していたところと、現場の実機でなければ判断できなかったところがありますが、MRはそれを補うかたちで効果を出しています。MRが作業現場における早期の問題発見と対策着手につながることで、部署によっては1年以内でMRの投資コストを回収できています」

 

トヨタ自動車ではすでに、4~5箇所の部署でMRを活用している。しかしVRは活用していないという。その理由として、MRであれば眼前はヴァーチャル映像であっても目の端にはリアル空間が見えているのに対し、VRでは目が覆われすべてがヴァーチャル映像になることが挙げられる。

「VRの場合には目が完全に覆われ、『自分がどこにいるのか』『どこ立っているのか』がわからなくなり、不安や恐怖を感じる原因になってしまいます。また、脳内が現実とはまったく異なる世界に飛んで行ってしまい、没入すればするほど危ない状態に陥る可能性もあります。そうなると、そこから事故が発生する原因となってしまいます。その点で生産現場にはVRは向いていないと考えています」

 

トヨタ自動車では展示会や現場での口コミをきっかけにしてMRが拡大。社内で約8500名もの人がMRを体感している。現場の工夫と同時に機能も進化することで、活用方法が日々進化しているという。

 

後編に続く)