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産業向けVRセミナー『VR/ARの現状と今後』レポート(2-1) 『ものづくりとVR』(前編)

去る2017年9月25日、東京・お茶の水の「お茶の水ソラシティ」において開催された、デル株式会社主催による産業向けVR セミナー『VR/ARの現状と今後』。(1)で取り上げた基調講演に続き、本稿では株式会社ボーンデジタル営業部セールスエンジニアである「中嶋 雅浩」が『ものづくりとVR』と題しておこなった講演を紹介したい。

本講演では、CADデータをVRで活用するためのトレンドや最新情報、ソリューション(AutodeskやPiXYZの製品)が紹介されたほか、身近になったVRコンテンツの制作方法やコラボレーションポイントの説明がなされた。

 

コスト削減につながるVR

モノづくりの現場では、CGがプロトタイピングのコスト削減で役立っている。しかし、これまではディスプレイに投影されたCGの2D画像を基に、モノづくりのジャッジをおこなっていた。それがディスプレイの画像ではなくVRとなったことで問題も起きている。3DのVRは2D画像よりも精度は高いが、それと実物とをどう結び付けていくかが経験の蓄積が必要なため、「VRへの一歩を踏み出せない例も多いのでは?」と中嶋は話す。

「設計の現場でみると、VRは要件確認に使われています。顕著な例を挙げると建築ですね。自社のプロダクトだけではCADデータは済ませられません。たとえば、外部のサプライヤー、パートナーなどのCADデータと組み合わせている場合、実物を見るときは製造するときになります。しかしVRを活用すれば、実物を見る前に『アセンブリして組み立てたものが設計の条件を満たしているかどうか』の確認ができるようになります」

 

VRならではの話であるが 3メートル四方程度の部屋さえあれば、マンションだろうがビルだろうがタンカーだろうが、「実物を確認できる体験ができる」のがVRの魅力といえる。

「IKEAではキッチンのVRコンテンツを一般公開しています。そこでは自身のサイズを子供へと変えたりペットへと変えたりすることができます。これを体験したときには、いわゆる“ガリバートンネル”のような感覚を覚えると思います。たとえば、ARのような実物も同時に見える世界だと自分が小さくなった感覚は覚えませんが、VRなら完全仮想空間へ没入されている状態です。そこで、“こびと”になった感覚を覚えたわけです」

 

VRを活用することで、ショールームのコスト削減も実現できる。たとえば、「リアルなクルマを置かないショールーム」という実証実験をアウディ社ではおこなっている。また、VRは“客寄せパンダ”としても最高なため、VR体験者の「体験データ」をクラウド上に集めて解析していけば、価値のあるマーケティングデータが生まれてくる。つまり、CGを使ったVRは“客寄せパンダ”として重要なわけである。

「ものづくりにおいて、VRとCGとはさまざまな場面でつながっています。そして、CGというと『高精細なレンダリングをして実物に迫る絵を作成する』ということが当たり前になってきています。ただ、実物に迫る絵を作成する作業はコンピューターへ非常に大きな負荷がかかり、レンダリング時間が必要になっています。そこでNVIDIAではAIを活用することで、その時間の短縮に成功しています。これまでのレンダリング技術というのは画像ができるまで、ノイズのようなザラザラした状態から絵をきれいにしていく大枠から細部を計算していくアプローチ をしています。しかしAIを活用することであっという間にノイズが消えるのです。このノイズを消す予測による計算技術 にAIが使われているわけです。これまで、コンピューターを何十台、何百台、何千台と集積して絵をつくっていた人たちにも、『CGのレンダリングはすぐに済む』という時代が到来しつつあります」

 

後編へと続く)