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産業向けVRセミナー『VR/ARの現状と今後』レポート(1) 『VR新時代にむけたDell Technologiesの取り組み - 爆発的普及期を目前に控え、大きく広がるVRの可能性 – 』(前編)

去る2017年9月25日、東京・お茶の水の「お茶の水ソラシティ」において、デル株式会社主催による産業向けVR セミナー『VR/ARの現状と今後』が開催された。このセミナーでは、実用化が進む産業向けVR/ARについて、VR-Ready ワークステーション「 Dell Precision 」を提供するデルが、「この市場の活性化を更に推進することを目指しているのか。そして、日本のVR/AR市場ではどのようなことが起こり、今後どうなっていくのか」といった各業界におけるVR/ARへの取り組みを事例や実情を交えて説明をおこなった。

本稿では、このセミナーのうち、デル株式会社の最高技術責任者 「黒田 晴彦 氏」が講演を行った『VR新時代にむけたDell Technologiesの取り組み - 爆発的普及期を目前に控え、大きく広がるVRの可能性 – 』と題したセッションを紹介していきたい。

 

VR拡大の背景には「ワクワク感」がある

VRという言葉は使われ始めたのは1989年のこと。1995年に任天堂やソニーがゲーム機に適用したことで第一次ブームが到来した。ただその当時、一部マニアの間では受けたが普及には至らずに終わった。世の中でVRが本格化し出したのは、FacebookがOculusを2000億円で買収した2014年のこと。その頃は、VRヘッドマウントディスプレイのベータ版しかなかったが2000億円も払ってOculus VRを買収したことで、「もしかして、VRは今後世の中で普及していくのではないのか?」と注目された。

そして2016年に3大ヘッドマウントディスプレイと呼ばれている「Oculus Rift」「HTC VIVE」「PlayStation VR」が登場。それぞれ、高性能で価格的にもリーズナブルなため「いよいよ本当にVRの時代が到来するぞ」ということで「VR元年」を迎えた。さらに2017年には、米CES、独CeBiT、米SIGGRAPHなどの各種イベントでVRが強い存在感を放つようになっている。黒田氏は冒頭で、このようにVRの歴史について振り返った。

 

その上で、VRとARには適用範囲の違いがあると、黒田氏は話す。

「VRはヘッドマウントディスプレイを被って、現在どこにいるのかは関係なく新たな世界の中へ没入するものです。このように、没入感があり現実のことは忘れられるのがVRです。それに対してARは、現実の世界に情報が挿入されるもの。そのため、現実と切り離されてどこかに行くというVRと、現実の世界に情報が入ってくるARと出発点が異なります。さらに、その二つを組み合わせた『現実の世界なのに仮想のように思える』MRという組み合わせも面白くなってきています」

 

VRはもともと、ゲームを中心としたBtoB向けエンターテイメントのイメージが強いが、BtoBにも使われるようになってきている。いっぽうARについては、ARマーカーという「ここで情報を発信します」という印を現実のものに付与しておき、ARマーカーに対してスマートフォンなどのデバイスをかざすことで追加情報を発信する、という使われ方が多かった。

それに加えて最近では、(「Pokemon GO」がそうであるように)場所の特定をARマーカーだけでなくGPSなどさまざまな条件を組み合わせられるようになり、移動型で情報が見られるようになってきている。このような状況になると、たとえば作業者に対してビル建設中の現場で「ここでこういう作業をするんだ」とAR用端末を通して指示できるようになるなど、ビジネスの現場でもどんどん普及し始めている。

 

「海外の事例を話しますと、アメリカでは教育分野の一部でVRの活用がスタートしています。たとえば人体の仕組みについて、教科書上で見るよりも、VRで『身体の中はどうなっているんですか』と見ていくほうがドキドキして面白いですよね。人体内部の実物を見るのは不可能なので、それをVRの中で再現してみせるというわけです。教育以外では、トレーニングや訓練の分野でもVRが活用され始めています。たとえば、旅客機にタラップを接続するといったトレーニングをする場合、リアルなトレーニングだと旅客機そのものがないとできません。このように実際にトレーニングや訓練をするためには、大がかりな設備や時間が必要になるという場合に対してVRを活用すると効果があります。そのほかエンジニアリング分野での活用も進んできています。たとえば人工衛星のような空中に浮かぶものを、2次元スクリーンだけに投影して製作していくのは難しい作業です。そこでVRを活用すれば、3次元で浮かんだ製品を360°回転して見ながら製作していけます」

 

VRが拡大している背景の1つにはワクワク感がある、と黒田氏はいう。

「コンピューターが無い時代には、おとぎ話やSF小説など、絵を見たり文章を読んだり頭の中で想像するしかありませんでした。子供のころなら本を見ながら想像力だけでどんどんイメージをふくらましワクワクすることができます。しかしそれが大人になると徐々に想像力が減退していき、絵や文章だけではワクワクしなくなってきます。しかし、コンテンツの面白さにVRという仮想現実が加わると昔のワクワク感がよみがえってきます。今VRが産業界で盛り上がっているのは、衰えたワクワク感が復活するからではないでしょうか。『ワクワクする』『面白いよね』という気持ちがVRの出発点です。そのため、まずはゲームに活用されましたが、それをマーケティングに活用してVRで興味と関心を惹き購買意欲へと直結できるようになります。また、エンジニアリングにVRを活用すれば、デザイナーの頭の中で考えていることを他の人と共有できるようになります。それは、改善意欲や共有意欲にもつながってきます」

 

後編へと続く)