VRコンテンツを制作するのに必要な人材は、コンテンツを企画するプランナー、制作を指揮するディレクター、CGを作成するCGクリエーター、実写映像を撮影するフォトグラファー、作品を取りまとめる映像編集者、VRコンテンツを生成するエンジニアなど多種多様となる。
「ただ最近では、すべてを1人でこなすスーパー技術者も登場しています。同時に、多彩な専門家を擁する多人数体制の制作プロダクションもあり、プロジェクトに応じてさまざまな事例があります。利用するソフトや機器も多岐にわたります。VRコンテンツを制作する際には、CGのモデリングやテクチャリング、レンダリングには3D CGソフトやレンダリングソフトが必要となります。また、CAD情報を変換する場合はCADソフト、映像の撮影には360°カメラや複数レンズカメラが求められます。さらに、映像編集作業には映像ソフトが必要ですし、VRを体験するためのVRゴーグルやヘッドマウントディスプレイは欠かせません」
しかし、VRコンテンツの制作体制をCMやTV番組、映画の制作などと同じように考えていると壁に直面する。ヘッドマウントディスプレイを被ってVR体験をする際、上や後ろを向いたときに真っ黒になっていると興ざめするだろう。そこでVRコンテンツを制作するときには、上下左右360°を見たときの仮想環境をつくる必要がある。そこで初めて、現実の世界を忘れてまったくの異世界にいると感じられるようになり、モニター画面とは異なる観点での制作が必要となってくる。
「1秒間に何枚の画像が表示されるか示す単位として『fps』(1秒間あたりに処理できるフレーム数/フレームレート)があります。現在のVRコンテンツでは30fpsぐらいのものが多いのですが、それでは少し動きが遅く現実感に欠けるところがあり『VR酔い』の原因ともなります。そこで、よりよい体験を提供するためには60~90fpsはあることが望ましいといわれています。ただし、この数値はリアルタイムレンダリングをする際に、1秒間に90枚の画像を処理できる能力が必要になるということです。そこでかなりの処理性能を持つPCが必要となります」
コンテンツの作り方はVRとARとでは異なってくるという。VRを効果的に活用できるコンテンツは、没入感を出すことによって現実と乖離させることがポイントとなる。
「VRの基本は『あったらいいな』『できたらいいな』です。行けないところに行ける、見えないところが見える、ありえないことが起こるが大事な要素です。一方、ARでは現実に追加情報が付加されるため、基本は『ここであなたにお知らせ』です。知りたい情報や知らせたい情報がある現場で、文字、画像、映像、音声などを表示するものです。このようにARは実際の現実に対する追加情報のために、あくまで現実ありきとなります」
VRやARへの取り組みを行う際、重要となるのはPoC(Proof of Concept)だ。言葉だけでなく実体験が物を言う世界がVRやARなので、まずはPoCで素早く試してみて、その体験を基に大きく育てていくことが成功の近道となる。
「言葉による説明だけでは『VRはまだおもちゃだろう』と首を縦に振らなかった経営者が、実際にVRで体験することで『これは使える!』と考えが変わり、取り組みが一気に進んだというケースもあります」
このように産業界での期待が高まるなか、「今後のVR、ARは2極化が進むでしょう」と黒田氏は予測する。ゴーグルの普及機によりVRが手軽に利用できるようになる一方、ARはVRの機能を統合したMRによる高付加価値化が進むだろう。そこで米デルが行った調査では、2025年までにハードウェアとソフトウェアを合わせてVR/MR/ARの世界市場規模は800億ドル規模へと拡大する見込みだ。さらに台数ベースでは、2018年から2021年までに約4倍へと急成長するという。
「今後、VRとARの用途は収れんされていくでしょう。ARについては、ゲーム・娯楽で利用される用途は5割を切りました。反面、産業用やデザイン・エンジニアリング用途が増えてきており、ビジネス向けの用途が強くなっていくという傾向です。それに対してVRは、コンシューマー向けのゲーム・娯楽用途が主流となってはいますが、ビジネスとしてはデザインや教育・トレーニング、ヘルスケアの分野での利用が増えていくと予測しています。また、VRはAIとの相性が良いため、機械学習(Machine Learning)に基づいてリアルタイムにAIで処理された結果を画像で見せる、将来予測(Predictive Analytics)で検討した結果を見せるコンテンツをつくり出す、など、VRとAIが融合していくでしょう」
最後に黒田氏は「VR/MR/ARの表示するウェアラブルデバイスも各社から登場しています。どんどん世界は変わり始めていますので、今からでも、VR/MR/ARへ取り組んでみてください」と締めくくった。