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「魔法使いプリキュア!」EDでのUnity映像表現の詳細解説~「Unite 2017 Tokyo 」講演レポートその1~(後編)

去る2017年5月8日~9日に行われた国内最大のUnityカンファレンスイベント「Unite 2017 Tokyo 」。ここでは同イベントで行われた66の講演のうち、いくつか紹介していきたい。

今回紹介するのは、1948年に設立された日本におけるアニメーション制作会社の草分け「東映アニメーション株式会社」のデジタル部がおこなった講演だ。登壇したのは、同社でアニメーションディレクターを務める小林真理氏、CGデザイナーの松本八希氏、テクニカルディレクターの中谷純也氏の3名。人気TVアニメーション『魔法つかいプリキュア!』の後期ED(エンディング)映像から初めて使用することとなったUnityの映像表現について、詳細な解説をおこなっていた。

前編)より続く

 

各データはMayaからUnityへとコンバートすることが必須

本講演で最後に登壇したのは、テクニカルディレクターの中谷純也氏。講演のテーマは、Unityを導入した際のワークフローについてである。

「Unityではモデリングやアニメーションはは難しいため、基本的にはMayaやMAXなどのデータ、もしくは「Digital Contentデータ」を持ってきて、そのデータをUnityで使用する形となります。つまり各データをUnityへとコンバートしなくてはなりません」

MayaからUnityへコンバートする必要があるキャラクターアニメーションについて、一つの方法としてはBXファイルで持っていき、Unityのアニメーター、あるいはアニメーションのコンポーネントを使用する方法である。この方法はファイルサイズがとても小さくシーンを開くのが容易というメリットがある一方、FBXファイルで持っていけるDeformerがBlendShapeやSkinClusterに限定されてしまう。

しかし東映アニメーションのデジタル部ではFBXファイルで持っていけないDeformerをたくさん使用していたため、このコンバート方法は難しいと判断。もう一つのコンバート方法を採用した。

そのコンバート方法とは、Alembicによる頂点キャッシュで移行していく方法である。この方法ではファイルサイズが大きくなるという問題があったが、頂点の位置をキャッシュしているのでDeformerの制約がないというメリットがある。そのため、『魔法つかいプリキュア!』の後期ED映像制作ではこの方法を採用し、インポートにはAlembicimporterを使用した。

しかしこの方法は事前に考えていたよりも問題を抱えていたという。

「Alembicはファイルサイズが大きく、プロジェクトを開くのに10~30分も待たされることになってしまいました。しかし、PCの記憶媒体をSSDにすれば解決できるとわかったのですが、それが判明したのはプロジェクト終了後でした。皆さんもAlembicを使うときはPCの環境に注意してください」

MayaからUnityへコンバートする必要があるのはキャラクターアニメーションだけではない。カメラもコンバートする必要があった。ただしライトはUnity内で用意したのでMayaからコンバートする必要はなかったと話す。

 

MayaとUnityとをSHOTGUNで連携することでシーン構築を効率化

また、プロジェクト管理ツールであるSHOTGUNとの連携をおこなったことによりワンクリックでUnityが起動し、「データのインポート」と「シーン構築」を全自動で行えるようになったという。

「Mayaからは各データとカットごとのAlembicのキャッシュファイル、カメラのデータをエクスポート。このときMayaのシーンデータからはカットの尺、登場しているアセットの情報が取得できるため、それらのツールを介してSHOTGUNに登録します。UnityではMayaからこれらのデータをインポートし、SHOTGUNから登録されている情報を取得しました。このようにSHOTGUNと連携することで、それまでは手作業で20分がかかっていた『シーン構築』が1分程度で済むようになったうえ、『データのインポート』から『シーン構築』までを自動化できるようになりミスをなくすことができました」

実際に要した作業時間はSHOTGUN連携前で約43分、SHOTGUN連携後で約24分となっている。連携前と後とでも、「データのインポート」と「レンダリング」の差はほぼないが、大きな差が現れたのは「シーン構築」部分。「シーン構築」の時間を大幅に圧縮(約1/20)できたことによりトータルで約半分への時間に短縮することができた。その大幅短縮の理由は、SHOTGUNとの連携で様々な情報が取得できるようになったことだという。

最後に中谷氏は、「人的ミスが起こりやすい環境で手作業を繰り返すのであれば、ツールを作って最短かつ正確に作業を終えられるようにしたほうがいいでしょう」と、SHOTGUNを導入した理由を語って本講演を締めくくった。

なお、 Unityを使用した『魔法つかいプリキュア!』後期ED映像を背景の種類で大別すると、「宇宙」「海」「お菓子」「ハロウィン」「クリスマス」の5バージョン。中谷氏によると手作業でシーン構築を行っていたのは「宇宙」バージョンとのこと。このことを聞いてから再度ED映像をチェックしてみると、また異なった見方ができるだろう。