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「モアナと伝説の海」が起こすアニメ業界の次なる波(後編)

その後、この海の背景にキャラクターやボート、その他の個別の要素をレイヤーし、両レイヤーが互いに作用し合う (ボートが水の動きに合わせて動く) よう、アニメーターたちはアルゴリズムで生成された海面から一部を「切り取り」、実際の航跡や激流の波しぶきなどを用いてボートのミニチュア アニメーション シーンを作成する必要があった。特殊効果アニメーターは、こうした処理を行うことでボートと水の相互作用をプログラムし、レイヤーの結合を目立たなくして、ボートの動きに合わせてキャラクターが上下するようアニメーション化し、その他の環境エフェクトも追加できた。

モアナ アニメ 制作風景

「モアナと伝説の海」の制作風景 [提供: Disney]

水の動きに合わせて動くボートの物理特性、そして同様にボートの動きに合わせて動くキャラクターは、ライター業界で「その世界のルールを決める」と表現されるものを思い起こさせる。オーディエンスは、目にするもの全てがその世界観に合致したときにのみ、その架空の世界を信じることができるのだ。ほぼ全てのエフェクトが未完成だった初期段階の「モアナと伝説の海」のクリップでは、ボートは航跡を一切残さず、キャラクターは上下に動くデッキに立っているというより宙に浮いているように見えた。シーンをリアルに見せるには、これらの要素全てをアニメーションする必要がある。

リアルな動きに加えて、「モアナと伝説の海」の海には感情も必要だった。なにしろ、海はキャラクターのひとりなのだ。「モアナが海に対して、怒って歩み寄るシーンがあります」と、ドリスキル氏。「波の動きや、海岸線に打ち寄せる水のしぶき、打ち寄せては引いて砂を濡らす波、波が引くにつれて乾く砂に、機微が感じられます」。

こうした繊細さを生み出すには、アニメーション要素と特殊効果を、より小さな個別の要素へと細分化する必要があった。独特の IT アプローチが要求される取り組みだ。水のアニメーションにはパーティクルが重要となる。これは単体のアニメーション要素で、昔ながらのビデオゲームによくあるポリゴンに類似したものだ。水のパーティクルはコンピューターにより生成され、その動きは個別にプログラムされる。実際の海の物理特性が、水という無数の「単位」から構成され、ひとつのまとまりとして動くのと同じだ。

モアナ アニメ ハイタッチ 海

モアナと海がハイタッチするシーンのレンダリング画像。細部までよく分かる [提供: Disney]

「自分たちの能力を超える成果を出したいと感じる特殊効果が幾つか存在していました」と、ドリスキル氏。「 (個々の) マシンで可能な処理の限界に挑戦していることは理解していました。また、扱えるのが 5000 万~ 1 億のパーティクルなのに対して、波頭を立てる高波には数億、数十億というパーティクルが必要なことも分かっていました。そこで、分散コンピューティングについて綿密にリサーチを行いました」。

これは複数のマシンを跨いで同時に実行されるソリューションで、単一の巨大な中央コンピューターのようにプロセッシングが共有される。

プロセッシングの難問を解決するのに加えて、チームはディズニーが「ファンデーション エフェクト」と呼ぶ仕組みをさらに進化させることで、制作スケジュールを大幅に圧縮した。ファンデーション エフェクトとは、監督や特殊効果アニメーターがそれぞれの作業を始められるよう、完成後の要素の位置を示すためにレイアウト アーティストが使用するシンプルなプレースホルダー (仮に場所を確保するもの) だ。

特殊効果チームは、レイアウト アニメーターがファイナル ショットの構築に使用できるよう、水しぶきや滝、流れる溶岩、火山の爆発 (溶岩の魔女テカ用) といった効果要素 (その多くは高解像度であり撮影用に準備されている) のライブラリーを作成した。

「この作品は、ファンデーション エフェクトをさらに一歩進めた初めての映画です」と、ドリスキル氏。「シンプルなエフェクトのライブラリーを作成しました。こうした効果を、特殊効果部門に作業をさせなくても、最終フレームまで継続的に使用できます」。

特殊効果チームの水のアニメーションをどれほど進展させたかを考えれば、彼らの才能を次の大きな課題への取り組みに向けることは、有効な時間の使い方になるだろう。今後のディズニー作品の視聴者を楽しませるに違いない、「新しい作品」という課題に。

 

Drew Turney

世界を変えたいと考えていたドリュー・ターニーは、成長すると他の人がどう世界を変えているかについて書くほうが簡単だと理解しました。現在はテクノロジーや映画、化学、書籍などに関して著述しています。

本記事は「創造の未来」をテーマとするオートデスクのサイト「Redshift  日本版」の記事を、許可を得て転載したものです。

 

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