前編では、VR HMDの進化について説明をした。後編ではVRビジネスの世界で始まっている試み、そして、これから始まっていくと思われる利用法について説明していきたい。
(前編)より続く
現在、VRビジネスを牽引している最大の分野は「ゲーム」だといえるだろう。「PlayStation VR」のように、ほぼゲームに特化したVR HMDが発売されているため、リサーチ会社TechNavioの業界調査レポートには「「ゲーム市場におけるグローバルVRが今後4年間で着実に成長し、2020年までに84%以上成長すると予測している」と記載されている。
日本ではVRに対応したゲームソフトがまだ少ないためにVRゲーム市場がまだ伸び悩んでいるものの、ゲームソフトのラインナップいかんでは今後のVR普及を牽引していく分野だといえる。
併せて、VRに対応した動画コンテンツや映画も徐々に増えつつあるほか、VRを体験できるテーマパークなどのエンターテイメント施設も東京都心を中心として続々と登場してきている。
代表的なものとしては、池袋・サンシャイン60展望台にある「SKY CIRCUS」や、お台場・東京ジョイポリス内に設置されたVRゲーム「ZOMBIE SURVIVAL」、秋葉原・パソコンショップ「ドスパラ」の秋葉原本店5Fに設置されているVR体験スポットが挙げられる。
また、渋谷のゲームセンター「アドアーズ」にはVRアトラクションだけのフロア「VR PARK TOKYO」があるほか、2017年夏には新宿・歌舞伎町の映画館跡地に、VRを活用したエンターテインメント施設「VR ZONE Shinjuku」(バンダイナムコエンターテインメント運営)がオープンする予定となっている。
VR体験スポットの特徴は、場所にとらわれないといったVRの特性を生かし、従来のテーマパークのような広大な敷地がない都心の一角でも設置できること。このことは、VRビジネスの今後の展開を予想させてくれる。
現状では、ゲームや動画コンテンツ、映画、VR体験スポットのようなエンターテイメント分野がVRビジネスを牽引している。しかしエンターテイメント業界以外でも、VRを用いたサービスを導入してビジネスに活用しようと試みる企業も増えてきている。
不動産業界はVRのビジネス活用が盛んな業種といえるだろう。新たに家を購入したり部屋を借りたりする際には内見がつきものだ。そこでVRを利用して、まるで部屋の中にいるかのような疑似体験を行うのである。その体験では、これまでの不動産広告のような写真だけでは気がつかない情報を得ることができるだろう。もちろん、最後はリアルな内見を行う必要があるが、その前の選択段階で内見する件数を絞れるといったメリットがある。
中古マンションや中古住宅のリフォーム後をVRによってヴァーチャル体験できるサービス「中古ミテクレ」(リニューアルストア)というサービスもスタートしている。通常、中古マンションや中古住宅を内見するときはリフォーム前であるため、リフォーム後のイメージがつかみにくい。そこでHMDをかぶってVR映像を見ることで、リフォーム後の様子を確認できるというものだ。
キッチンのショールームを見ることができるアプリの試験的に公開しているのは家具メーカーのイケア。対応するVR HMDは「HTC Vive」(HTC)のみであるが、同製品の特徴を生かし、現実と同じ背の高さでVR内のショールームを歩くことが可能だ。瞬時にキッチンのデザインを模様替えしたり、身長の設定を変更したりといったことができるので、ショールームや展示会などでの活用が期待されている。
モノづくりの現場である製造業でもVRの活用は進みはじめている。製造業の中でも自動車業界では1990年代から、VRを自動車の開発に役立てている。さらにこれからは、自動車業界だけでなくあらゆる製造業においてVRをビジネスに活用する方向へと進むだろう。
たとえばVRを活用することで、「実物になってみないとわからない、わかりづらい」とされていた課題をデジタル試作で解決できるようになる。すでに自動車の運転席からの視界検討に使われているVR活用事例もあり、VR技術の活用シーンは広がっていくに違いない。
IDC Japanの調査によれば、2016年の通年のHMD(VR/AR(拡張現実)両方含む)世界出荷台数は1,010万台となっている。しかしそれからわずか5年後である2021年のVR/AR HMD世界出荷台数は、ほぼ10倍となる9,940万台にものぼると予測されている。
しかもその成長は、エンターテイメント分野を中心としたコンシューマー用途だけでなく、不動産業や製造業をはじめとしたエンタープライズ用途が中心となって牽引していくのである。
「VR元年」と呼ばれた2016年。続く2017年~2021年は「VRの成長・普及の5年」と呼ばれるだろう。VRをビジネス活用するのであれば、この成長・普及の波に乗り遅れてはならないと考える。