2016年は「VR(Virtual Reality:仮想現実)元年」と呼ばれた。そして2017年にはVRビジネスがより大きく展開し、エンターテイメントの世界にも浸透していくだろうと期待されている。その際にまず問題となるのが、HMD(Head Mounted Display:頭部装着ディスプレイ)の普及といえるだろう。
VRを楽しむためにはHMDが必須である。そのため、HMDの価格やスペックがVRの普及にも大きく関わってくる。これまでのVR HMDはスペック的に高い製品は数十万円といった高価格であり、低価格製品はスペック的に満足いくものではなかった。しかし最近になって、価格的にもスペック的にもこなれたHMD製品が登場してきている。
そこで今回は「VRの世界で今起こっていること、これから起こること」をテーマに、VR HMDの進化を中心として、VRビジネスの世界で始まっている試み、これから始まっていくと思われる利用法を考えてみたい。
コンシューマー向けのHMDが登場したのは1990年代にさかのぼるが、VRが楽しめるVR HMDが本格的に市場に投入されたのは数年前のこと。ただ、価格面とスペック面のバランスが取れた製品が登場し始めたのは2016年からといえるだろう。
その代表格といえるのがソニーから発売された「PlayStation VR」だろう。それまでの本格的なVR HMDと比べれば比較的低価格(希望小売価格:44,980円+税)でありながら、フルHD(1920×1080ピクセル)、視野角約100度という高スペックさを持つことから人気を呼んでいる。
2016年のVR HMD国内出荷台数11.7万台のうち、「PlayStation VR」が91.3%の8.1万台(IDC Japanの発表による)を占めたという。
しかしこの最強とも見える「PlayStation VR」にも弱点がある。それは、「PlayStation4」というハードウェアに依存するということだ。そのため、「PlayStation 4」本体を所有していないと「PlayStation VR」は使うことができない。
映画や動画/写真コンテンツを楽しめるとはいえ「PlayStation 4」は基本的にゲームであるため、“ゲーマー”でないと手を出しにくいという難点もある。また、価格面でこなれたとはいえ、“VRのお試し”として4万円以上の出費は高額だともいえる。
上記のような難点を乗り越えるVR HMD「400-MEDIVR3」が、2017年になってサンワサプライから発売された。
この製品の優れた点はHMD本体にスマートフォン(4~6インチに対応)を装着するだけでVRが楽しめること。そのため、別途ハードウェアを用意することなく、YouTubeやVRアプリなどで公開されているVRコンテンツを視聴できるようになっている。
耳まで包み込み密封性を高めることができるヘッドフォン付きなので、別途ヘッドフォンを用意することなくVRの世界へ没入していくことができる。対応サイズ内なら、メガネをかけたままでHMDの装着が可能なのもうれしいところだろう。
もちろん、スペック的には高価格のVR HMDには及ばないが、税込で4980円(直販サイト価格)とお手頃価格で購入することができる。VRの入口として最適だといえるだろう。
2017年には、VRの世界をもう一歩進化して楽しめるVRデバイスの発売も予定されている。それは東京を拠点とするスタートアップ企業「VAQSO」が発表したVRデバイス「VAQSO VR」だ。
この「VAQSO VR」は単体のVR HMDではない。既存のVR HMDに外付けし装着することで利用できるデバイスである。
その特徴としては、VRコンテンツと連動して“匂い”を発すること。匂いを発生させるカートリッジを内蔵しており、ワイヤレス通信でデバイスを制御し、VRゲームなどのコンテンツと連動して匂いを発生させる仕組みとなっている。匂いが出るタイミングはVRコンテンツと完全に同期することができ、「銃を撃って数秒後に火薬の匂いが漂う」といったことも、開発者が自由にプログラミングできる。
また、カートリッジはスナック菓子の「スニッカーズ」サイズのコンパクトさであり、「PlayStation VR」や「Oculus Rift」「HTC Vive」をはじめ、あらゆるVR HMDに装着が可能だ。
なお、製品は2017年中に1万円以内での発売を予定しており、1台の「VAQSO VR」に5~10種類の匂いの搭載を目標としている。「VAQSO VR」が登場することで、VRの世界にも「視覚」「聴覚」に加えて「嗅覚」が加わっていくだろう。
(後編)に続く