ものづくりの主役は、大手企業から個人へ移ると言われている。しかし、それは孤独な作業を意味するわけではない。志を同じくするメイカーズたちは、知識やノウハウを共有するオープン コミュニティを形成し、そこで結び付いている。
メイカームーブメントの浸透により、日本国内でもファブラボや DMM.make など、メイカー向けの環境を提供するサービスが増えている。そうした環境の最大の魅力は 3D プリンター、レーザーカッターといったデジタル工作機械へのアクセスだが、コミュニティが形成されるリアルな空間が提供されるのも見逃せない点だ。
Autodesk Creative Design Awards 2016 の「ものづくり部門」でグランプリを獲得した水野諒大氏も、受賞作品の「SWELL」の製作過程で、そうしたコミュニティでのやり取りが大きな助けになったと語る。九州大学芸術工学部の工業設計学科でデザインを専攻し、プロダクトのデザインを学んできた水野氏の卒業研究は、「3D プリンターの特徴を生かしたプロダクトの研究」がテーマ。金型を使った従来の製造方法には無い、3D プリンターの強みを生かしたデザインを行うことになった。
プロダクトとして選択したのは、スプーンやマドラーを使わず、形状だけで撹拌の機能を実現するコップ。そのアイデアはコップの中の飲み物が、スプーンを入れたままだと飲みにくいと感じたことから生まれた。「あらためて観察してみると、スプーンはソーサーなどの上に置くとそれを汚してしまうし、オフィスなどには無いこともあるなど、いろいろな問題を引き起こしています。そこで、スプーンがなくてもココアなどの粉末を溶かせるようにできないか、というところから考え始めました」。
この作品を特徴付けているのが、海の波が持つ緩やかな曲線にヒントを得たという、コップの内側に付けられた多数の隆起だ。「まずは構造モデルとして幾つかの凹凸のパターンを 3D プリンターで作り、そのプロトタイプに水とココアを入れて、コップを回してかき混ぜてみました。実用的に機能するものになるかどうかも確信が持てなかったので、このアイデアが実用化できるよう、最初は機能面に絞ってデザインしました」。
プロトタイプの製作には、ファブラボ太宰府や大学の 3D プリンターが使われた。「主に熱溶解積層法の 3D プリンターを使いましたが、透明な感じを出すためにいくつかは光造形の3Dプリンターも使ってみました」。
<後編に続く>
本記事は「創造の未来」をテーマとするオートデスクのサイト「Redshift ⽇本版」の記事を、許可を得て転載したものです。