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3Dプリンターを活用した究極の履き心地のパンプス(株式会社ミリメーター・後編)

市ヶ谷にオフィスを置く株式会社ミリメーターは、2015年10月設立という若い会社だ。2017年1月にスタートしたパンプスのフルオーダーメイドは、日本初3D木型を使った靴作りサービスとなっている。

ミリメーターのパンプス作成では職人による顧客の足の計測、木型の製作という工程をデジタル化。3Dプリンターを利用して木型を製作することで、大幅なスピードアップを実現。3D計測による木型は、採寸箇所が限られている職人の木型を超えるフィット感を達成している。
前編に続いて、同社の取締役井黒帯明氏にお話を伺った。

一人一人の足に合う女性靴を製造する手法を確立し実際にサービスインするまでには、2年近い研究開発の期間があったという。

コンサル会社勤務時代に3Dプリンターの未来を模索

ミリメーター立ち上げの最初のポイントは、井黒氏の個人的な体験だった。
井黒氏は以前、ITコンサルティング会社に勤務していた。その時「バンコクを旅行中、立ち寄った靴屋が閉まっていたため欲しい靴を買うことができなかった」経験がきっかけで、お店に行かなくても足の3Dデータを使って世界中の靴を買える手法を検討し始めたという。

前編でも紹介したように、フルオーダーメイドの靴で時間がかかる工程のひとつが木型作りだ。従来の木材や石膏を使用して専用の木型を作る方法では、数週間、一カ月といった時間を要する。
そこで目を付けたのが、複雑なデータを低コストで成型することができる3Dプリンターだ。試しに3Dプリンターで木型を出力してみると、短時間で正確なものを出力可能なことが確認できた。

この3Dプリンターでの木型出力には、もうひとつのメリットもあった。3Dプリンターで出力する場合は、まず足を3Dスキャナーでスキャンして、自動で型取りする。
これなら、職人の元に出向いての細かいやり取りは不要となる。コミュニケーションを取るハードルを下げることで、カフェに行くぐらいの気軽な感覚でオーダーメイドを利用してもらえると考えた。

ビジネスとして軌道に乗せるため株式会社ミリメーターを設立

3Dプリンターを使った靴作りには商機があると確信。ビジネスとして軌道に乗せるため、井黒氏はコンサルティング会社を退社し、株式会社ミリメーターを立ち上げた。新会社の取り組みは認められ、「3D技術を活用したフルオーダー女性靴の実現」は平成27年度ものづくり補助金にも採択されている。

シューズカフェには顧客が殺到、2017年3月時点で7~8万円という価格ながら注文後3~4カ月でお渡しという状況だ。
「それなら、3Dプリンターさえあれば同じビジネスに参入できるのではないか」と考えてしまうが、そこにはさらなる秘密があった。

井黒氏「3Dプリンターを使えば誰でも同じものを成形できる、というわけではありません」

ミリメーターで使用している3Dプリンターは、同社が独自に改良を加えたもの。カスタマイズした3Dプリンターの調整、成形物の出し方、扱い方にノウハウがあるという。このノウハウは、もちろんミリメーターの他のサービスでも活用されている。

また、優れた木型が出来たとしても、オシャレで履き心地の良い靴が簡単に作れるわけではない。技術顧問である酒井満夫氏の力なくしては、究極のフィット感は実現できないだろう。

ミリメーターのWebサイトには「職人の精巧な技と最新の3D技術を組み合わせることで未来の当たり前を実現していく」という同社の理念が掲げられている。

これからも「価値のある試みを続ける」「見捨てられている課題を形にする」ことを目指し、ミリメーターの挑戦は続く。