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「Autodesk University Japan 2017」セッションレポート ~建築業界でのVR/MR活用の海外最新状況~(後編)

VRツールはプロシューマー向けとプロフェッショナル向けの二極化へ

VRコンテンツをつくるツールをセグメント化すると、プロシューマー向けとプロフェッショナル向けとに分かれるとトーマス・ライリー氏は話す。

「プロシューマー向けについては、Revitのデータから簡単にVRのデータを生成できるツールです。クリック一つで簡単にVRデータを生成できます。プロフェッショナル向けはというと、ゲームエンジンである『Autodesk Stingray』です。このツールを使用して作成するVRコンテンツは非常にフォトリアルでクオリティの高いレンダリングされたデータでVRを体験できます。ただし、ツールの使い方を習得しなければいけなかったり生成に時間を要したりといったデメリットもあります。というように、よりリアルに作り込めるツールと、簡単にできるツールの二つに分かれてきています」

 

続けてトーマス・ライリー氏は、VRを快適に生成するにはグラフィックエンジンが最大のキモとなってくるが、エヌビディア社のVR Ready認定グラフィックスチップを搭載しているハードウェアが必須になるという。

「これは自動車業界のために発表された『HOLODECK』というプロジェクトですが、そこには三つのキーポイントがあります。一つ目はフォトリアルなモデルを使うことで、二つ目は単一のフォトデータに対して複数の人が入ってVR体験ができるということです。それは異なる場所にいる人たち、たとえば、エンジニアと設計者など、別々の場所から一つのVRデータに入って同じ空間で体験できるということです。しかも『触っている感覚まで体験できる』というのが三つ目のポイントとなります。これらは施主と施工業者というように建築業界にも応用できるものです」

VR空間の中で変更を加えたところを全員で見ることができたり、会話ができたりする。そのため、まるでリアルな製品を触っているかのように検証ができると話した。

 

「レンダリングが終わるまで待つ」という時代は終わりを告げる

エヌビディアはAIでも市場をリードしており、AIを活用したフェイシャルアニメーションやノイズ除去、ライティングなどにもAIを活用していると話す。

「これは実際にAIを組み込んだSDK(OPTIX5.0)によるレンダリングとなります。OPTIX5.0は2017年11月から提供できますが、右側がAIを使ったレイトレーシングのデータで、左側がスタンダードなレイトレーシングのデータです。レイトレーシングは光の奇跡を計算しますので、フォトリアルなデータを生成するのには非常に時間がかかります。しかしAIを使うことで、非常に高速でフォトリアルなレンダリングが実現できるわけです。通常はCPUによるレイトレーシングも、AIとGPUを併用して使うことで150倍高速に動くにようになります。フォトリアルなVRデータを作成するとき、『レンダリングが終わるまでの時間を待たなければいけない』という時代はもうすぐ終わりを告げるでしょう」

 

 

GPUを使ったノイズ除去も、AIを使うノイズ除去も、VR ReadyのGPUを使うことで実現できる。GeForceと比べて、Quadroの最大の特徴は安定性。長時間使用をしてもGPUのパフォーマンスが落ちてこず、安定稼働を続けるという。

 

最後に大橋氏が再び登壇。HP社とオートデスク社、エヌビディア社との共同VRキャンペーンの紹介があった。

「この共同キャンペーンは『Project Mars』と呼ぶものです。『火星の上に人が移住するとしたら、どんなインフラや施設が必要になるか?』といったことをすべてVRデータで構築してしまおうという壮大なプロジェクトです。現在、各国からデザインコンセプトを集めている段階ですが、全世界ですでに1万7000件のものデザインが集まっています。このキャンペーンは3年くらいかける息の長いものとなっており、コンセプトデザインからモデリング、そしてVRを構築して火星空間に建物を建てるところまで作り込んでいくキャンペーンとなります」

日本でもこのプロジェクトを展開しており、「Education League」という形で高校生以上の学生に対してプロジェクトを案内。将来の建築業界をになう人材を育成している学校の学生に登録して応募してもらうかたちをとっている。日本ではJAXAに協力を仰ぎコンセプトに生かすということもしている。「この取り組みも最終的にはVR/MRに絡んでくる取り組みですので注目してほしい」と大橋氏は締めくくった。