次に、日本VR学会初代会長を務めた東京大学名誉教授の舘 暲(すすむ)氏が登壇。「VRからテレイグジスタンスへ~身体性がもたらすコンピュータ世界から実世界への飛躍~」と題して、VRの歴史を遡りながら未来への流れを探る講演をおこなった。
これまで3DとVRの進展は30年周期で革新的なものがあり、3Dが発展した10年後にはVRが興隆していると話す。
「VRという言葉が生まれたのは1989年。この年がVR元年でした。そして2016年はVR普及元年だといわれています。さらに2025年のVRの世界市場は、ハードウェアで450億ドル以上、ソフトウェアで350億ドル程度に上ると予測されています。そして今後、VRはテレイグジスタンスへと推移していくと考えられます」
テレイグジスタンスとは「tel」(離れて)+「existence」(存在)を組み合わせた造語で、「離れて存在すること。あるいはそのように感じること」を意味する。VRがコンピュータなどで創造されたヴァーチャル空間へと没入していくのに対して、テレイグジスタンスは実世界への実時間臨場や実時間作業を指しているという。
たとえばテレイグジスタンスでは、多数の知能ロボットを管理制御し、必要に応じて、そのうちの任意のロボットにテレイグジスタンスで“降臨”できる。また、人型ロボットに入り込んだような臨場感を得ながら、ロボットを自分の分身のように自在に制御することも可能となる。
将来的にはテレイグジスタンスを活用することで、離れていてもパーティなどに参加できたり、自宅に居ながらにして世界中を旅してまわりながら買物ができたり、日常的には行けない海中ダイビングや標高が高い山への登山をしたり、といったことが簡単にできるようになるだろう。
ただテレイグジスタンスを実現するためには、視聴覚だけのVR/ARに触覚を加えていく必要がある。そのためには、「力(電気的刺激)」「振動」「温度」を加えられる「一体型触覚伝送モジュール」の開発が待たれている。
「テレイグジスタンスにはネットワークの進展が大事です。ネットワークが進展していくことにより、情報のユビキタス化が『IoT』と呼ばれているモノのユビキタス化が進行しています。そして将来、通信の5G化により身体のユビキタス化へと進行し、テレイグジスタンスが実現していきます」
今後のテレイグジスタンスの展開としては、2020年の東京オリンピックで社会実験が開始され、2030年には「時空間移動産業」という、現在の自動車産業に匹敵する規模の新しい産業基盤の創出を目指していると話した。
最後に、没入型多面ディスプレイや触覚ディスプレイ、ウェアラブルコンピュータに関する研究開発を専門とする東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授の廣瀬通孝氏が登壇。「アフェクティブメディアとVR」と題して、この技術領域とVRとのかかわりについて紹介し、それが持つ産業的意味について考察していった。
「『アフェクティブ』とは『感情』という意味、いわば心の問題です。VRというと身体とか、体を動かすとか、物理的な動きを中心に語られがちですが、内的なものとも関係するので、今後は非常に大きな産業にもなっていくかもしれないというお話しをさせていただきたいと思います」
同氏はVRには五感技術やライフログと行動センシングが重要だという。そして行動を誘発する技術として、レシートをOCRなどで読み取って消費行動を記録する「レシートログ」によって未来の消費行動を予測できると話す。そして、行動や情動は感覚から生まれることから、今、アフェクティブコンピューティングがAIの次の技術として非常に大きな成長の可能性が指摘されている。
「アフェクティブコンピューティングとして、人の表情読み取れるコミュニケーションロボット『JIBO』が登場して話題を呼んでいます。また電通からは顔の撮影のみで心拍数を計測。心の緊張を緩和するスマートフォン向けアプリ『Pace Sync』がリリースされています。また、すべての人の行動が意識されて起こるわけではなく、自分の状態が認知されることで情動が生じるということもわかっています。そこで、電話会議で相手の動画を見せずに笑顔の静止画だけを見せた場合、電話会議参加者の創造性が向上するといった結果が生ずることになります」
締めくくりとして廣瀬氏は、モノの所有の欲求が急速にしぼみ心の豊かさが重視されている今、より人の心を理解する必要性が生じていくだろうと語った。
なお、6月23日には本田技術研究所二輪R&Dセンターデザイン開発室第3ブロック研究員の伊東理基氏によるデザイン現場における3Dツール活用事例セミナーが開催された。「Honda 2&4 Projectデザイン開発秘話」と題した講演では、Hondaデザインにおける、「面白いからやってみよう」からはじまり「試してみる・創るよろこび」を3Dツールで行ったHonda 2&4 Project活用事例を紹介。3DCG作成の模様やその開発秘話などが紹介されていた。