2017年5月8日~9日に行われた国内最大のUnityカンファレンスイベント「Unite 2017 Tokyo 」でおこなわれた講演のうち、今回紹介するのは合資会社VoxcellDesign代表の脇塚啓氏が登壇した「『日本列島VR』および『HoleLenz』の開発事例ご紹介」。
脇塚氏は、業務用訓練シミュレータメーカーで3DCG技術を習得し、現在はアプリ開発をおこなう合資会社VoxcellDesignの代表を務めている。本講演では、その同氏が現在制作中であるVRコンテンツ「日本列島VR」の開発過程(衛星写真を使わずに国土を表現するアプローチ、日本全域をシームレスに移動するための最適化、最終的な絵作りやUXなど)について紹介がおこなわれた。同時に、Microsoft社のHoloLens向けアプリ「HoleLenz」の開発手法についても紹介がなされた。
脇塚氏がまず紹介したのは「日本列島VR」アプリ。このアプリは衛星情報を一切使わずに、国土地理院の数値情報のみから生成して日本全土を立体化したものだ。VR空間内で自由に飛び回れるアプリケーションであり、2015年から開発がスタートしている。ではなぜ、「日本列島VR」は既存の衛星情報をテクスチャとして使用しなかったのだろうか。その理由を次のように説明する。
「Google Earthなどの衛星写真は見るだけなら無料ですが、ビジネスで使用するとなると高額な料金が発生するということが一番の理由でした。そこで、このような制約から解放されて自由に使いたいという思いがあったことから、自身で開発をスタートさせたのです。また、衛星写真だとどうしても、撮影したときの季節や天候、雲などが固定されます。しかし自身で制作すれば衛星写真ではできない表現ができるということも大きいですね。そのほか、衛星写真を使用するとハリボテ感が出るというのも自作した理由のひとつです。たとえば水面の反射や地面の照り返しなども、CGならよりリアルに表現が可能ですから」
「日本列島VR」の元データは国土地理院の地図情報を使用している。この情報は一般に公開されており、登録すれば誰でもダウンロードできることから使用しているという。このダウンロードした地図情報はXMLファイルであるため、それをUnity上でリアルタイムレンダリングしていったん画像化。標高、市街地、道路、河川、鉄道などをモノクロ画像として作成していった。
「森林と畑の境目などは植生データを持ってきているわけではないので、傾斜や標高を見て推測で作成しています。それをUnityに持っていってレンダリングしています」
そしてそこに、Substance Designerを使用したプロシージャルな素材を組み合わせることにより、数値情報のみから得る以上の高精細な地表を表現している。
「Substance Designerのマテリアル見本を見たとき、反射している画面を水面や河川に応用することや、ビルの屋上のキラキラしたものに応用することで、綺麗な地形の表現ができるのではないかと考えて使用しました。また、素材の生成はSubstance Materialでおこないました。問題点としては、パラメータ変更時に再生成が走るのですが、高解像度で再生成が走ると重くなってきます。1ブロックや2ブロック程度ならまだしも、日本全国分を一気に再生成するとなると現実的ではありません。そこでShader Forgeを使ってシェーダで生成するように変更しました」
この時点でGoogle Earthと画像を比較したところ、細かなところでは異なってはいるが全体を見ればGoogle Earthと遜色ない画像が得られたため、さらに開発を進めていったという。
「Terrain自体はUnity標準を使用しましたが、ブロックとブロックの境界部分にスキマが見えることがあるため、スキマを自動的に平均化し埋めてくれるTerrain Stitcherというアセットも使用しました。この『日本列島VR』はいろいろと応用できると思いますが、まずはシンプルに空を飛びたいという欲求を満たしてくれるアプリだと思います。操縦を覚えて空を飛んでいくのではなく、簡単に誰でも、夢を見ているが如く生身の身体一つのままで空を飛ぶ。このようなコンテンツにしたいという思いが実現しつつあります」
ただ、現状では実データの解像度としてはおおよそ10m/pixelとなっており、地表近くでの表現が弱いといった課題が残っている。テクスチャ的には森林や畑などもっと細かいマップを出しているので見た目上はもう少し解像度は高いように見える。しかし、実地形を反映している情報量としてはそれだけであるため、改善点として考えているという。
「全体を一律的に作成していますので、たとえば羽田空港も一面畑になっていたり、火山も畑になっていたりしています。このように局所的にユニークな地形や構造物に関しては手作業を加えるしかないと思っています」
今後、「日本列島VR」は、実用的な用途(観光、防災、教育など)などのほか映像素材としてなど、幅広く応用できると考えており、通常のVRとしてだけでなく、可能な限り現実に近いと感じる環境下で現実にはあり得ないことが体験できる「シュールリアルVR」や「MR(Mixed Reality : 複合現実)」へも発展できるのではないかと脇塚氏は話す。
駆け足となるが、最後に同氏が開発しているもう一つのアプリ「HoloLenz」の紹介があった。このアプリはMicrosoft社のHoloLens向けアプリとして開発しており、HoloLensの空間マッピングを活用して実際の壁や床に仮想的に開孔。その穴の向こう側の空間を見られるものとなっている。
「とにかくUIがシンプルで、操作方法はエアータップするだけ。このシンプルなUIは海外でも好評を得ています。床に穴を開けると、落とし穴のような面白い体験もできます。なお、穴の向こう側の風景は『日本列島VR』で作成した画像を全天球画像にして貼っているものです」
さらに同氏は、「HoloLenz」を発展させ、「HoloLenz」で開けた穴に入っていける「HoloLenz Gate」も同時に開発しているほか、「HoloLenz Gate」をさらに発展させたアプリ「HoloLenz Gate Experiment」も同じく開発。穴を開けた向こう側で歩けるほか、向こう側の世界からこちら側の世界へと実在の人物がやってくる、といったことも開発中である。
「穴を開けた向こう側の世界も立体的に構築することで歩けるようにしています。現状では表示範囲(FOV)が狭く見せ方に工夫が必要なほか、グラフィック性能が弱いために最適化が必要という問題があります。ただ、今は性能不足でも数年後には実用化できるのでは、と考えています」