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ムービー製作現場の生の声を聞く(WOW・後編)

--ツールの比率はどうなっていますか。

金原氏「『Maya』はほとんどいません。3ds Maxも少人数でC4Dが王様です。でもまだゴリゴリのCG系は3ds Max、SIが基本ですね。そこはまだ負けていないと思います」

--レンダーは『Octane』以外に何を使っていますか。

金原氏「『V-Ray』、『Corona Renderer』などです。『Redshift』も非常に気になってはいます、『Overwatch』でも使っているので。ただRedshiftもGPU系で高速ですが、対応しているネットワークレンダーサービスがまだ少ないようですね」

--今は少数ですね。

金原氏「OctaneもまだGPU系が充実していない点がネックで、完全に仕事用レンダーとして切り替えるところまでいっていません。オリジナル作品には使えますが、納期がある作品では急な対応もできないと困ります」

--その辺は試行錯誤されているところでしょうか。

金原氏「そろそろGPUの時代が来るのではないか、とドキドキしています。僕が会社のパソコンを一括管理しているので、GPU系を買うかCPU系を更新するか悩みますね」

--作品を生み出していくなかで「このツールのこの機能は外せない」というものはありますか。

金原氏「レンダリングでしょうか。以前は反射物やレフ板をいちいち動かして、レンダーを動かして、とやっていました。Octane系なら、動かせばすぐビューポートで結果が見えます。こういったリアルタイムのものが不可欠ですね」

--プラグインでお気に入りやオススメのものはありますか。

金原氏「(前編で)お話ししたFume FXをよく使います。流体計算をすれば、その動きを〝粉〟に適用できます。本当にリアルな煙はシミュレーションが半日かかりますが、流体に乗せるだけなら5分で終わりますね」

--煙以外にも使えますか。

金原氏「いろいろできます。Fume FXで作ったWOWのムービーで、『MOTION』という作品があります。煙のようで何か違う、液体のような炭のような、そういったものも簡単に作れます。シミュレーションもすぐ終わるし、パーティクルも最近は量を出せますね。流体の動きは、コンピューターに任せればいい感じになります」

--そういったやり方は共有されていますか。

金原氏「共有していますね」

--ご自身で考えられたものが人の手に渡って、そこから逆輸入されることも。

金原氏「それが一番面白いと思います。だから手法を教えますし、『その代わりにこれを教えて』と言います。WOWに技術を惜しむ人はいないので、聞いたらみな自慢げに教えてくれます」

--ツールにはそれぞれ得意分野があるかと思いますが、使い分けはどうされていますか。

金原氏「モーショングラフィックスならC4Dが強いですね。だからといって僕がC4Dを使うわけではなく、『ちょっとやってみてよ』とお願いします。逆にC4DはUV編集がイマイチですが、3ds Maxなら簡単にできるので〝ピンポイント使い〟をするデザイナーもいますね。あとは、オブジェクト変換用に3ds Maxを使う人もいます」

--現状をお話いただきましたが、今後こういう風になってくれたら楽だ、面白いなというのはどこですか。

金原氏「無くしたままのICEを付けてほしいと思っています。ICEはSoftimageの機能のひとつで、開発停止で使えなくなっています。ウチのSoftimageユーザーから聞けば聞くほど、欲しい機能です」

--この前行ったレンダリングセミナーで『レンダリングは設定したり機能覚えたりするものではなく、仕上げの作業、アーティストが仕上げるツールになっていく』という話が出ていました。そういう風になっていくと思われますか。

金原氏「『Arnold』はエラーが少ないと聞くので、そうなっていくと思います。ただ僕は不安と言えば不安です。きれいになっていくということは、絶対時間もかかっていくでしょうから。
僕らはArnoldで1枚30分かけて綺麗にレンダリングするより、1枚2分くらいでトライアンドエラーを重ねたい。もちろん、設定して一発で目標のものが出来上がるなら、1枚30分でもいいのですが。

主に納期が短いCMで『なんかちょっと違うんですよね』と言われることがあります。この〝なんか〟に具体的な言及はありません。いろいろなパスを出して重ねたり、少し質感をいじったり、出来たものをブレンドしてみたり、そうやって複数のバージョンを作ってすぐに見せられるかが重要ですね」

--ありがとうございました。