去る2017年1月26日、東都京都千代田区の秋葉原コンベンションホールにて、最新のヴァーチャル・リアリティ(VR)技術やソリューションを発表・展示するイベント「NVIDIA Pro VR Day 2017」が開催された。主催は、ビジュアル・コンピューティングテクノロジーをリードする企業、エヌビディア合同会社。「VR元年」と呼ばれた2016年から、さらなる幅広い展開が期待される2017年にかけて、VR技術はどのような進化を見せるのか。また、携わる企業には何が求められるのか。業務向けVRソリューションを提案するソリューション・ベンダーが集結し、VRの現状、これからのあり方について、興味深いセッションを繰り広げた。株式会社ボーンデジタルからは、ソフト事業部セールスエンジニアの中嶋雅浩が登壇。VRがより浸透するであろう2017年において、各企業が直面する課題と解決のポイントについて、解説を行った。
まず語られたのは、これからVRをビジネスに活用していくために、知っておくべき現状。ついては、今なぜVRが急激な発展を遂げているのかについての現状分析が紹介された。
「センサーが小型化し、安価になったというのが、VRのブームが訪れた大きな要因です。それまで何百万、何千万もしたデバイスが、安く簡単に手に入るようになったという現実が、ブームのきっかけと言っていいでしょう。VRにかんするビジネスの立ち上げを考える前に、とりあえず先行投資をしてデバイスを買って、試して、それから考える、という企業さんも多いかと思います。今のブームはそんな段階なのではないでしょうか」
各企業がVRコンテンツを制作している体制についても、事例を挙げて紹介された。VRのテクノロジーは、主にゲーム制作の分野で発展してきており、そこには最新の技術と豊富な情報が蓄積されている。VRコンテンツを必要とする製造業の企業は、自社が持つCADデータなどのVR展開を社内では手掛けず、外部のゲーム制作会社などに委託することも少なくない。開発されたVRコンテンツは、BtoB、BtoCの両面で活用されていく。それが、現在のVR活用の大まかな流れになっているようだ。
続いては、VRコンテンツを制作していく上で、各企業が直面している課題について。黎明期のVR制作現場でよく見受けられる問題点の解決のために、ボーンデジタルがどのような提案をしているのかも合わせて紹介された。製造業に携わる企業がCADデータをVR展開する場合、どのようなアプローチをするのか。またそこにはどのような問題が生じやすいのか。中嶋は、VR制作の段階を追いながら、問題の本質を語った。
「CADデータは外観を仕上げるものではありません。ですから、オートデスクの『Maya』や『3ds Max』を使って3Dモデルを生成していくことになります。そのあと、『Stingray(オートデスク)』『Unity(ユニティ・テクノロジーズ)』『Unreal Engine(エピックゲームズ)』などのゲームエンジンにデータを持って行ってVR化する。そこまでは皆さん辿り着いている考え方だと思います。ただ、いざVR化してみると、クオリティがさほど高くない。そこが問題点です。この問題が起こる理由は、ゲームエンジン側が『PBR(フィジカル・ベースド・レンダリング)』というマテリアル生成技術を用いているのに対し、3DCGを作る『Maya』や『3ds Max』側はこの『PBR』に対応していないということにあります。つまり、マテリアルに互換性がないということです。そういった問題に対して、私たちボーンデジタルがご提案しているのはAllegorithmicの『Substance Designer』の導入です。これはPBRテクスチャ作成のためのソフトウェアソリューションですので、ハイクオリティなVRのコンテンツを仕上げることができるようになります」
さらに、クオリティの高いVRコンテンツ作成のために、オートデスクの「VRED」についても紹介があった。「VRED」は、単体で手軽に質の高いVRコンテンツを作り出すことができる。また、VRコンテンツの“質”よりも、“軽さ”“速さ”にこだわりたい設計者のニーズに合わせた製品として、PiXYZの『REVIEW』も紹介された。この『REVIEW』は、ハイエンドコンテンツの表示を劣化させずにポリゴン数を減らし、データを簡易に扱えるようにするというもの。設計したデータをすぐに立体で確認したい設計者にとっては、非常に有益なツールになるだろう。
VRコンテンツ制作における課題と解決法は、さらにいくつか提示された。設計・製造のCADデータは、データ自体が重く、VR化した際にパフォーマンスが出づらいという問題。重たいデータでは動きが鈍くなる一方で、VRデバイス側は高い解像度を求めてきている。この問題を解決するために開発されたのが、「VR SLI」という技術。グラフィックスカードを、左目、右目用に、それぞれ独立させて駆動させる。つまり、グラフィックボードをコンピューターに2台積んで、処理を分散させるという技術だ。また、視点を認識できるVRデバイスの活用が、パフォーマンスの向上に役立つという方向性も示唆された。視点が合っている部分はハイクオリティにレンダリングし、合っていないところにはフィルターをかけて粗目にレンダリングすることで、コンピューターにかかる負荷を軽減するという技術は、実用化の一歩手前にあるようだ。
(後半)に続く