レンダリングをしているとき、自社の(あるいは個人の)コンピュータのスペックが足らずに納期に間に合わない、新規の仕事を受けられない、といった経験をしたCG制作会社やクリエイターは多いはずだ。このような問題を解決できるクラウドレンダリングサービスがマイクロソフトからリリースされた。「Azure Batch Rendering」と呼ばれているこのサービスは、外部のクラウドサーバを使用してレンダリングをおこなうことで、突発的な仕事の受注などにも柔軟に対応でき、管理コストも増やす必要がなくなる。
そこで今回は、この「Azure Batch Rendering」サービスを担当する、マイクロソフト株式会社のHPC Techリードである「田中 洋」氏と、「Azure Batch Rendering」の導入支援サービスをおこなう、マイクロソフトのパートナー企業「株式会社ネクストスケープ」のクラウドレンダリング事業開発部 部長「岩本義智」氏に話を聞いた。
――「Azure Batch Rendering」のことを教えていただけますか。
マイクロソフト 田中氏:マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上で稼働しているサービスのことです。通常はローカルのレンダーファームで行われているレンダリング業務を、そのままクラウドサーバ上で行うことができるサービスですので、必要なときに必要なだけのレンダリングパワーを使うことができます。近年では4Kテクノロジーが登場し、解像度がますます大きくなっているため、レンダリングに求められるPCのスペックはさらに大きなものになっています。そこで「Azure Batch Rendering」を使用することで、その能力をオンデマンドで利用でき、容量がさらに必要になったときには自由に拡張することができます。
――どのように使うのでしょうか?
田中氏:Maya、3ds Maxに「Azure Batch Rendering」のプラグインをインストールしておけば、手元のPCからArnoldのレンダリングジョブを直接投げられるようになっています。デザイナーなどのクリエイター側からは情報を投与すれば自動的にクラウドへとアップロードされ、レンダリングが完了すればその結果を得られる仕組みです。プラグインとして、Maya、3ds Maxといったツールに統合されているというのがもっとも重要なポイントで、「クラウドサービスでレンダリングしていること」を意識することなく使うことができます。
マイクロソフト株式会社の田中洋氏(右)と、株式会社ネクストスケープの岩本義智氏
――どんな3DCGツールやレンダラーで使えるのでしょうか?
田中氏:Autodesk社のMayaと3ds Maxです。この2製品向けにはプラグインが提供されており、そのプラグインをインストールすることで、レンダリングしたいシーンをUI上で選択するだけで自動的にデータがクラウドサーバ上に展開されレンダリングをおこなうことができます。また、レンダラーはArnoldとV-Rayに対応しています。ただ現状では、V-Rayは限定的な対応に留まっていますので、今後に期待していただければと思います。
――いつからMayaや3ds Maxで使えるようになったのですか?
ネクストスケープ 岩本氏:Mayaと3ds Max用のプラグインは提供されていたのですが、Autodesk社側でクラウドレンダリングの利用を認めていなかったのです。それが2017年8月31日に解禁となり、Autodesk製品をクラウドレンダリングサービスで正式に使えるようになりました。それにいち早く対応したのが、マイクロソフトさんの「Azure Batch Rendering」というわけです。
――「Azure Batch Rendering」利用によるメリットは?
田中氏:PCがどんなに安くなったとしても、自社内でレンダリングするにはコストが付きものです。同時に、物理的なスペースや空調も必要で、電力消費量も大きく、PC以外のコストもかかります。その点「Azure Batch Rendering」なら、仮想マシンで何十、何百、何千というコアをすぐに増減できます。「Azure Batch Rendering」は全世界42拠点(2拠点追加の予定)に設置されているデータセンターのどこでもクラウドレンダリングすることができます。「Microsoft Azure」のデータセンターは、国内だと東日本(東京)と西日本(大阪)にありますが、もしそれらのデータセンターが混雑しているのであれば、海外のデータセンターのリソースを使うことが可能です。もちろん、クラウドレンダリング料金はグローバルで統一されているので、日本のデータセンターを使おうが、海外のデータセンターを使おうが金額は変わりません。また、マシンの管理やソフトウェアアップデートなど保守管理の人的コストを削減できるのも大きなメリットと言えます。
(後編に続く)