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ゲームAI・ゲームデザインから考えるゲームの過去・現在・未来(3)

二番目のキーワードは『メタAI(ドラマを作るAIとは?)』。大野氏は先の起承転結の話を引用し「メタAIは、ドラマを作るAIと言っていいのか」と問いかけた。
三宅氏は、AI担当者が「AIディレクター」と呼ばれる海外の例を挙げ、キャラクターを役者としたとき監督としてメタAIが存在するとした。
「どうやってドラマを作るかは、今でも課題」だとする大野氏。Pokémon GOで自分が体験した「公園で全然知らない人と一緒にピカチュウを探した」という〝現実世界を巻き込むドラマ〟を紹介。こういった方向でのAIの可能性を問うた。

三宅氏は、「AIは現実世界の認識が苦手。そこでGoogleは逆転の発想で現実世界をデータ化し、IngressやPokémon GOを生み出した。監視カメラはAIの目となりうる存在だし、カメラで人を認識するデジタルサイネージなど、AIが現実に入り込むインフラが作られている。ここにもゲームの可能性はある」と答えた。
大野氏はゲームデザイナー的視点で、「現状のゲームはフィルタリング的な思考が強い」と分析。強い人とタッグを組んだほうが強くなれる、楽しいという状況から、メタAIやドラマによってゲーム空間自体を楽しめる方向へ進む「その可能性が見えてきたのではないか」とした。

三宅氏もそれに同意。「ゲームAIはデータマイニング系とエージェント系の2系統がある。データマイニング系は多数のデータからフィルタリングによって有用なものを導くが、エージェント系はユーザーを導く。エージェント系が進化しキャラクター化することによって、エンターテイメントの空間を作りやすくなる」という見解を示した。

余談ではあるが、対談の中に「お前を消す方法」でおなじみオフィスのイルカ〝カイル君〟も登場。今、パソコンではCPUに余力があるし、インターネットを活用したディープラーニングも手法として十分使える。よってパソコンでエージェント、キャラクターを動かすのもアリではないか、といった話も出た。

さらに、これまでAIが担ってきたような役割をプレイヤーが担当する『EVOLVE』から、ゲームデザインとAIの協調による新しいコンテンツの可能性へと話は進む。大野氏の「AIについてゲームプランナーに知ってもらいたいこと」という問いに対して、三宅氏は「AIの技術は分からなくてもいいので、効果を知っておいてほしい」と回答した。

三宅氏「たとえば、昔のゲームでキャラクターが〝ハコ〟の中に閉じ込められていたのは、パス検索ができなかったから。パス検索があることで、レベルデザインが変わってくる」

大野氏は、Unityを使うゲームプランナーと接するなかでスクリプトを書ける人が増えていると感じたという。ゲームデザイナーがプログラム、AIについて学ぶだけでなく、プログラマーもデザインの知識を得てアイデアを出す、という関係に可能性があるとした。

大野氏は最後のキーワード『未来のゲーム(AI)は、人をどこに連れていくのか?』を提示。これに対して三宅氏は、これまでのゲームが同じ体験を多くのユーザーに伝えるメディアだったとした。これは、デザインを固定しなければならなかったためでもあるという。
それに対して、これからはAIによってゲームの中身をユーザーにあった形にできる。ユーザーの日常のデータなどからのプロファイリングによって、ストーリーやレベルデザイン、難易度を決められる=「ユーザー固有の体験をAIが生み出す時代になる」と予測した。

三宅氏はさらに、体験が異なるからこそ「YouTubeにアップロードしたくなる」のだと解説。かつては同じ体験だったが、差別化した〝ちょっとずつ違う体験〟を与えることで、ユーザーコミュニティを多様化し、コネクティングを促進するだろうとした。
そして、「それはメタAIが少しずつ異なるドラマを生成するということか」という大野氏の問いを肯定。本格的なシナリオ自動生成はまだ研究段階だが、いずれ技術が進めば物語レベルで差別化できるとした。

大野氏はゲームについて、プレイすることによって明日の活力を得られる、「人を〝もう一階層〟上に押し上げることができる」可能性に言及した。ゲームはインタラクティブなので、映画などの感動体験を先鋭化させることもできるし、より良い人と人との繋がりを実現できる。
そのために、プランナーだけでは限界がすぐ来る。プログラマー、プランナー、ゲームプランナー、サウンドエンジニア、イラストレーターが集まり、もう一度「5年後、10年後のゲームとは何か」考える時期が来ているのだ、と熱く語った。

三宅氏も「プロセッシングパワーの増加とネットワーク速度の増加により、AIの伸びしろは大きい」とした。そして、「ゲームデザインと密接に絡み合うAIは進歩が遅かったが、これからゲームに関わる人が一緒にアイデアを出していくことで飛躍していける。そこには新しい可能性がある」と締めくくった。
両氏の予測する未来のゲームをプレイできる日。それが待ち遠しく感じられる内容だった。

対談中の両氏

対談中の両氏