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ゲームAI・ゲームデザインから考えるゲームの過去・現在・未来(1)

5月8日、9日の2日間にわたって、東京国際フォーラムで開催されたUnity開発者イベント、Unite 2017 Tokyo。このイベントから、『ゲームAI・ゲームデザインから考えるゲームの過去・現在・未来』の模様をお届けする。

この講演は、2名の解説+対談という形式で進められた。登壇したのは、株式会社スクウェア・エニックスでテクノロジー推進部リードAIリサーチャーを務める三宅陽一郎氏と、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社のQAマネージャー、大野功二氏だ。

三宅陽一郎氏

三宅陽一郎氏

大野功二氏

大野功二氏

 

ゲームデザインの過去・現在・未来

三部構成の最初は、大野氏の『「ゲームデザイン」から考えるゲームの過去・現在・未来』。大野氏は、自身のゲームプランナー、ディレクター、プログラマーなどの経験を基に、ゲームの分析から話を始めた。
ゲームデザインというと、すぐ思い浮かぶのは〝ゲームメカニクス〟だ。ゲームメカニクスはゲームのシステムやルールなどだが、そこには『アクション』『パズル』『リソース』『運』『官能性』といった要素が存在する。

『アクション』『パズル』『リソース』という分類は、80年代に活躍したゲームデザイナー、クリス・クロフォードが提唱。『運』『官能性』は、そこに大野氏が追加したものだ。
たとえば格闘ゲームなら、アクション要素が非常に強く、官能性も強い。将棋なら、パズルや取った駒を使うリソースがメインになる。この5要素を上手く使えば、ゲームを面白くすることができるわけだ。

この分類はゲーム制作の実務では問題ないが、ゲームデザインを探求したいという場合には、この視点は「浅すぎる」と大野氏は指摘。そこで、いったん視点を引いてみる。
すると、ゲームを作る4要素である『ハードウェア』『ソフトウェア』『プレイスタイル』『ゲームメカニクス』に着目できる。ただし、これらもあくまでゲームの一部だ。
そこでさらに視点を引いてみると、ゲームと人との関係性が見えてくる。ゲームにはプレイヤーがいて、その周辺には〝観客〟が存在する。面白いゲームならプレイヤーがゲームを遊ぶことで周りに観客が集まり、その観客が新しいプレイヤーになっていく。この面白さの伝播、イコール「現実世界に影響することが非常に重要だ」と大野氏は言う。

では、この〝ゲームと人の関係性〟には、何が影響しているのか。これが大きなポイントになる。
ここで、ゲームのハードウェアの進化の歴史を振り返ってみる。人間の遊びは、道具を使わない身体性の遊びからスタートしている。かくれんぼや鬼ごっこといった遊びが身体性の遊びだ。
そこから、石や木、紙といった道具を使った遊びが登場する。ここでは、争いをメタ化した将棋など、何かをメタ化した遊びが可能になっている。

さらにコンピューターやインターネット、VRの出現によって、対戦相手や審判さえもメタ化できるようになっているのが現状だ。この次に登場するものとは?
大野氏は、それをスマートシティやAR、MRだと定義した。これらは、現実世界そのものをデータ化、メタ化できる存在だからだ。
一例として挙げられたのは、建築家ノーマン・フォスターがマスタープランを担当したスマートシティの〝マスダール・シティ〟。またゲームでも、『Ingress』や『Pokémon GO』によってスマートシティの一段階手前の恩恵を受けているとした。

そして、その次に求められるのが〝ロボット〟化だ。これは、都市の中にメタ化した生物を投入し、その都市が生物として機能させるというもの。ここで大野氏が紹介したのは、あらゆるものはロボット化するという考え方だ。
実はロボットは、既に家庭に普及している。スマートフォンは目となるカメラを持ち、センサーを内蔵し、AIであるSiriも使える。手足がないだけで、ロボットといえる存在なのだ。また、身体を持つロボットとしても、200万台以上が普及しているロボット掃除機『ルンバ』がある。移動する手段やカメラ、センサーを持ち、あとゲームに必要なのはコンテンツだけだといえる。

ハードウェア進化の歴史

ハードウェア進化の歴史

 

こういったスマートシティやロボット化によって、ゲームの〝プレイスタイル〟は今後大きく変わる可能性がある。変わっていくと思われる方向はいくつかあるが、大野氏が注目するのは〝人と人が向かい合う〟スタイルだ。
例としては、コカコーラの2013年キャンペーン〝Small World Happiness Machines〟や、ニコニコ超会議2017〝石黒研究室の恋愛実験神社〟が挙げられた。

Small World Happiness Machinesは、離れた二国の自販機の前で共同作業をしてコーラをゲットするというもの。石黒研究室の恋愛実験神社は、見ず知らずの二人がタッチパネルで言葉を選んで会話するというものだ。
ここで重要なのは、AIの役割。今までAIは人の仕事を奪うと言われてきたが、大野氏の考えは異なる。ゲームやゲームAIから生まれる人と人、人とモノ、人と世界の関係性は、〝フィルタリング〟から〝コネクティング〟へと変わると予言した。

 

2へ続く)