リグの実践的なノウハウを学習する前に知っておいてもらいたいMayaの基本動作をマンガ形式で説明する、という新しいかたちで刊行された技術解説書「マヤ道!!」。今回は、本書の著者であるフリーイラストレーター兼デザイナー「Eske Yoshinob氏」をお招きして、Mayaとの関わりや「マヤ道!!」を描く上での苦労話、現在注目していることなどについて、語っていただいた。
――そもそも、CGを仕事にするようになった理由はありますか?
子供の頃から趣味で絵やマンガを描いて弟と見せ合っていたので、絵を描くことはもともと好きでした。ただCGを仕事にしていこうと考えた直接のきっかけは、高校1年生の美術の授業でのできごとです。そこで、当時話題となっていた映画『ジュラシック・パーク』のCG映像メイキングを授業中に鑑賞したのです。そのとき、「CGでこんなに凄いことができるんだ!」と感動して一気にCGの世界へと心が持っていかれました。それから、その思いを失うことなくCGの専門学校へと通い、専門学校卒業後にゲームプロダクションへと就職したわけです。
――Mayaとの出会いは?
私が通っていた専門学校は、当時としては珍しく2000年頃すでにMayaを導入していたのですよ。Versionがまだ1.5くらいの頃だったのですが。ですので、Mayaと初めて出会ったのは専門学校時代ということになりますね。
――ということは、Mayaとの付き合いは専門学校以来ということですね。
専門学校を卒業して16年ほどが経ちますが、それから今に至るまで、3DCGソフトはMaya一筋です。ただ、専門学校卒業後に就職したゲームプロダクションでは、3ds Maxをメインに使っていました。しかし自分自身ではMayaのほうを気に入っていたので、「自腹でも購入しよう」と資金を貯めていました。そのように考えていたところ、Mayaの購入価格が28万円まで下がったために個人でMayaを購入して仕事でも使っていました。ただしばらくしてMayaを使っているクライアントも出てきたため、会社でもMayaを購入することとなり、私が使わせてもらいました。
――ところで、「マヤ道!!」を執筆するきっかけは?
ボーンデジタルさんがCG Pro Insightsシリーズの第一弾を刊行したばかりの頃、「第二弾はどうする?」という話が出ていました。そんなとき、私が同社主催のMayaのセミナーを開催していたとき「Mayaに関する本を書きませんか?」と誘われたのがきっかけです。そのときすぐには、書くとも、書かないとも、はっきりとは返答していなかったのですが、セミナー終了時にボーンデジタルさんから「Eske Yoshinobさんが本を書きます」と告知され、退路を断つかたちでスタートしたというのが本当の話です(笑)。まあ、自分としても「Mayaの本なら書いてみたい」とは考えてはいたのですが、それまで本を書いたことはなかったため、本音を言えば、「やりたい気持ちが半分、怖さが半分」という気持ちでしたね。
――最初からマンガ形式と決まっていたのですか?
「マンガ形式にしたい」ということは自分から提案しました。ただ、ボーンデジタルさん側としてはマンガを出版したことがないため、「経験値的に保証はできない」と言われました。そこで、「まずは第一章のネームを描きますので、それを見てから判断してください」と私のほうから提案。ボーンデジタルさんにそのネームをチェックしていただいたところゴーサインが出たので、マンガ形式で刊行することになったわけです。
――もともとマンガを描いていたので、マンガのほうがやりやすかったわけですね。
そうですね、サクサク読める技術書を目指していましたので。とはいえ、ソフトを使ってマンガを描いた経験は長くても数ページ程度。200ページという長編を描くのには苦労しました。最初はPhotoshopを使って描いていたのですが、途中からマンガ制作に特化したソフト「CLIP STUDIO PAINT EX」を使って描くようになりました。このソフトを使えば、Photoshopの塗りつぶしツールのような感覚でスクリーントーンを貼っていくことができますし、吹き出しもPhotoshopの円形選択ツールのようにドラッグするだけで出来上がったり、コマ割りも簡単にできたりなど、マンガ制作を大幅に省力化できます。このソフトなしではとても完成までこぎ着けなかったと思います。
「マヤ道!!」はCEDEC AWARDS 2017 著述賞を受賞
――「マヤ道!!」では、製作現場におけるモデラー、リガーに対する問題が描かれていますが。
モデルが上がってきたとき、そのモデルのデータがトラブルを抱えた状態だと後々に影響が出てしまいます。そのことを認識しておかないと、下流でトラブルになる原因となってしまいます。たとえば、アニメーションを制作しているときや、「ライティング時にレンダリングできない」「データを開くのに時間がかかる」といったトラブルが発生しがちです。そのため、モデルの段階できちんと仕組みを知った上でクリーンなデータを作成していくだけで、後行程でのトラブル率が非常に低くなるわけです。それはMayaを使っていく上で押さえなければいけないところなので、「マヤ道!!」でクローズアップしました。
――「マヤ道!!」のターゲットは?
「実務でなんとなくこなせていてトラブルが発生してもある程度は自力解決できるけれども、Mayaの基礎は知らない人」という人がターゲットです。Mayaというソフトは、良く言えば奥深い、悪く言えばとっつきにくい、というところがあって、「マヤ道!!」で描いた内容を知ってもらい、作業効率アップに貢献できたらいいなと思っています。
――Eskeさんご自身、Mayaのプロの使い手となったのはいつ頃ですか?
いつかと聞かれると、それはわからないですね 徐々に徐々に、「ああ、これはこういうことだったのか!」と理解を深めていった結果が今に至っていますから。逆に言えば、常に現時点が「Mayaに対する理解が一番深い状態」になっていると言えるかもしれません。Mayaを使っていると未だに新しい発見がありますし、バージョンがアップし新機能が搭載されると、それまで常識だったと思っていたことが微妙に変わっているということもありますしね。
――「マヤ道!!」の続編については?
ここ数年は人にMayaを教える機会が多いのですが、「マヤ道!!」を刊行するまではそこに描いた内容を教えていました。さらにもう一つ、セットで教えている内容があって、それを解説した本があればいいなあとは考えています。その内容とは、「数学のベクトルと行列がCGソフトどういう扱われ方をするのか」ということ。行列とベクトルの話というのは、よりテクニカル寄りの話ですので、モデラーであれば知らなくてもいい話かもしれませんが、リガーやコンポジッターなら知っておくと損はない内容だと思っています。「マヤ道!!」はデザイナー全般に対して「Mayaについて勉強しましょう」という内容に対して、続編として考えているのはテクニカル寄りの話の本にしようと思っています。
Mayaの基本部分は「『マヤ道!!』を読んでおいて」と言えますが、行列やベクトルのことについては、その都度、教えていかなければなりません。そうすると「毎回同じことを言っているな」と感じることがあるので、それを解説した本があれば便利かなという思いもあります。
(後編に続く)